◆桃と緑と格闘と◆



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登場人物・プロローグ
★登場人物★


†玲(れん)家(本家)‡何百年もの歴史ある呪術と体術の家系

杏華(あんじぇ)玲家の一人娘。主に呪術を得意とするが、体術もそれなりに出来る。§高2

真魂(しゅんちゅん)杏華の母。おっとりした性格。

起龍(きりゅう)杏華の父。体術のプロ


†玲家(分家)

龍我(りゅうが)杏華の幼なじみ。体術が得意。呪術が苦手。杏華が気になっている。
§高2

桜紫(しゅうし)龍我の姉。年上の人と結婚し、娘がいる。

牙将(がしょう)龍我達の父であり起龍の弟。

美紫(みゅんし)龍我達の母。サバサバしていて行動派。


†光(こう)家‡最近栄えた悪魔術の家系

紅鈴(こうりん)幼い頃から悪魔術を教わり極めてきた。人を従わせる術が得意。
杏華にオープンで恋心を抱いている。§高3

輝朱森(きしゅうしん)紅鈴の妹。杏華を嫌い、龍我に恋心を抱いている。
人の心理をつく術と呪い系を得意とする。§高1

希森(きしん)紅鈴たちの父。強力な術が使える。遊び人。

朱羽(しゅう)紅鈴達の母。術はあまり使えない。

紅也(こうや)希森の遊びで、真魂との間に出来た子供。§高3


†その他

祝柚春(しゅう ゆし)杏華の親友。いつも一緒にいる。§高2

蛍蒼藍(けい せいえい)杏華の親友。優しくふんわりした性格。§高2

蛍蒼剣(けい せいけん)蒼藍の双子の弟。龍我といつもつるんでいる。§高2

紅琉々(く るる)杏華をしたっていて輝朱森と仲良し。くるると呼ばれることも。§高1

菜柚聖(さい ゆいせ)紅鈴に恋心を抱いていて、いつも側にいる。
美人で男子に人気があるが、少し派手。§高3

我侑琉(が ゆる)桜紫の夫。

我潤瑠(が うる)桜紫と侑琉の娘。


★プロローグ★

『今年の高等部の優等生賞は1年の玲杏華さんです!』

「え・・・。」

桜のつぼみがふんわりと桃色に染まってきた高校1年の3月。

校内に大音量で放送が入る。

教室に居た本人、杏華はおもわず声をあげた。

「私・・が・・・?」

クラスの者もざわついている。

『玲、すげー』

『でもさぁ・・あいつの家って・・。』

『アンタ馬鹿じゃないの!?』

『は?』

『杏華って何でも出来るんだよ!?』

『杏華ちゃんは勉強も運動も勿論術もできるの〜』

『テストなんか殆ど満点だし』

『は』

『あんなんなのに!?』

『あんなんとか言っちゃ駄目なの〜』


クラスではいろいろな話になっている。勿論中心は杏華だが。

『去年まではずーっと紅鈴様だったのに・・』

『玲さんに抜かされちゃったんだね』

杏華の話題は高等部だけにとどまらなく、中等部にまでさかのぼった。

『きしゅーしーん』

『るる?』

『高等部の優等生賞ね、紅鈴様じゃなかったんだよーっ』

『え・・・お兄様が・・?』

『うん・・ずっと紅鈴様だったのに・・・』

『誰?』

『え?』

『誰なの?』

“きしゅうしん”と呼ばれた子の目つきが鋭くなった。

『・・玲杏華って人・・・。』

『・・杏華!?』

『輝朱森のお隣の一家の人でしょ?』

『・・・・あいつ・・・っ』



高校1年の3月の終り。

これは序章にしかすぎなかった。
第一章 それは
今日高校の終了式。
玲家の庭では光家と一緒にバーベキューをしている。

「「「杏華、おめでとーっ!」」」

「あ・・ありがとっ・・・。」

杏華の優等生賞を祝ってのパーティー(?)らしい。

輝朱森は不機嫌そうだ。

「っとに杏華はスゲーよなぁっ。」

「龍我・・・っ」

龍我は杏華の首に手を廻した。

決して付き合っていたりはしない。

ただの幼馴染だ。

「龍我も見習えよ!なぁ、牙将?」

「全くその通りだぞ、」

「わーってるよ!」

バシバシと母親と父親に頭を叩かれる龍我。

「杏華ちゃんが勉強教えてくれてるのに・・・なんでこんなに駄目息子なんだか・・・。」

はぁ、と美紫が溜息をついた。

「お、俺だって体術ならっ・・・」

「それなら杏華ちゃんだって出来るよなーっ?」

「えーっ・・・。」

杏華は少し困っている。

「龍我のがすごいよ!」

輝朱森が口を出した。

「杏華より龍我の方が凄いんだよ。」

「チビ、馬路で言ってんのか?」

美紫が問い掛けた。

「当たり前じゃん。ついでにいうと、杏華はあたしよりも下だもん。」

輝朱森はふて腐れているようだった。

「えっと……」

そこへ紅鈴がやってきた。

「やぁやぁハニーvv優等生賞おめでとう。」

「あっ………///」

紅鈴は杏華の顎を持ち上げた。

「今までは僕がずっと取っていたんだけどな…。残念だよ。」

「きゃっ……///」

「「あっー…!!」」

紅鈴は杏華の頬に軽く口付けた。

「こーりん!!」「お兄様!!」

「え……?」

「お兄様!杏華なんかに何してるのよ!!」

「キス……かな」

紅鈴は笑みを浮かべた。

「しゅう、杏華なんか、はダメだよ。杏華が可哀相じゃないか。」

「ひゃぁっ///」

紅鈴は杏華の腰に手を廻した。

「や…やだっ……、紅鈴様っ……///」

「ん?」

「あっ…///」

そして引き寄せられる。

「紅鈴!!杏華が嫌がってるだろ!?」

「お兄様!!」

「はぁ…。五月蝿い輩が多いな…。杏華、僕の部屋行こうか?」

「行きませんっ……。」

「遠慮することはない。優しくしてあげるよ。」

「っっ……///」

紅鈴は杏華の耳元で囁いた。

「ねぇ……行こうよ」

杏華はひたすら首をふる。

「はいはーいストーップ」

美紫が口を出した

「それ以上は大人の階段昇ってからにしろ、ガキ」

「………そうですね。」

そう言って杏華を離した。

「杏華……」

「大丈夫だよっ」

杏華は元に戻った

・・・というより戻るほかなかった。
第二章 いきなり
ある日の夜、居間から龍我の叫び声が聞こえる。

「っあーっっくそーっっ!!わかんねーっっ」

「だからっ……」

どうやら龍我は杏華に勉強を教えてもらっているようだ。

「なーんで杏華はこんなん出来ンだよー」

「なんでだろ……?」

「ここが良いからだろっ」

「あうっ;;」

龍我は杏華の額をペンで突いた。

「痛いよぉ……」

「あーあ。もうやーめた」

龍我はその場に倒れ込んだ。

「もぉ……。」

そこへ真魂と起龍がやってきた。

「あらー。いらっしゃい、龍我君。」

「ども。」

「いつ見ても仲良しねー。」

「おい、龍我。愛する我が娘に手ェ出したらブチ殺スからな…」

「お、お父さん……;;」

「出さねぇよ;;」

「あなた……早く娘離れしてくださいね」

「厭だな。絶対嫁なんかに出すもんか。」

「(それは困る……。)」

「龍我?」

「いっ……いやっ何でもないっ」

「……?」

「私、龍我君になら杏華を任せられるわぁ〜」

オホホ、と真魂が笑った。

「「え…。」」

「いや、駄目だな。どうせならお隣りの紅鈴がいいだろう。」

「「え……;;」」

「ん?杏華も紅鈴なら嬉しいだろ?」

「えっと…;;」

「そうねぇ、紅鈴君ならしっかりしてそうだし……」

「(ンなもん駄目に決まってるだろ…)」

「今から婚約してくるか」

「そうねぇ」

「(オイオイ……)」

「行こう、杏華。」

「何処に…?」

「お隣りに決まってるでしょ〜」

「や……やだ…」

「いくのが厭やら婿養子に来てもらおうか。」

「そーねぇ」

「(そんな問題じゃねーだろ……)」

「さぁ、行こうか。」

起龍は杏華の手を引き行ってしまった。。

「えーっっっっ」
第三章 そして
なんやかんやで結局引っ張られ、光家に連れ込まれた杏華。




「で・・・僕に婚約してほしいと・・?」

「そういうことよ〜」

「それは理解したんですが・・・」

「何だ?」

「何故龍我も此処に居るんですか?」

そう、龍我も来ていたのだ。

「御前が杏華に手ェ出そうとしたら止める係だよ」

「龍我・・・///」

「酷いなぁ・・。僕はそこまで最低な奴に見えてるのかい?」

「当たり前だ。」

「はぁ・・・。っと、起龍さん、真魂さん、もうすぐ母と父が来ますので・・。」

「急がなくても結構だぞ。真魂はもう帰ってなさい。」

「はい・・・。」

真魂は小走りで帰った。

「お母さん・・・?」

「気にする事はない。」

「・・・?」

そこへ希森と朱羽がやってきた。

「いらっしゃい」

「で?用件はなんだ?」

「嗚呼父さん、杏華と僕が結婚しないかって・・。」

「まぁ、紅鈴、その歳で婚約なんて・・・。私、少し淋しくてよ?」

「母さんには父さんが居るだろ。」

「だって希森は最近『御仕事』で忙しいんだもの。」

「朱羽、そんな事はどうでもいい。で、紅鈴はどうするつもりなんだ?」

「僕は別に受けてもいいんだけど・・・。杏華の気持ちも聞きたいな?」

紅鈴は杏華を見た。

「私はっ・・婚約とかまだ良く分からなくて・・・・その・・えっと・・・」

杏華はどうしてもどもってしまう。

が、龍我が続けた。

「紅鈴とは婚約できない・・・いや、『したくない』か」

ニッと龍我が笑った。

「龍我っ・・・そんなはっきりと言っ・・」

杏華は口を押さえた。

「ふぅん・・・。杏華は僕とは嫌なんだ?」

「えっと・・そーじゃなくて・・・。」

「紅鈴様には柚聖ちゃんが居るしっ・・・」

「あー・・いつも付きまとってるもんなー?」

「あれは勝手に付きまとわれてるだけだよ。」

紅鈴がイライラし始めた。

そして、部屋の外から声が聞こえてきた。

「そんな奴と結婚なんかしないほうがいいぞ」

「え・・・?」

「誰だ?」

希森が扉を明けると、壁に男がもたれかかっていた。

「紅也君・・・。」

「そんな奴と結婚しても杏華が不幸になるだけだ。」

「なんだ、紅也は解ってンじゃん」

「当たり前だ。」

龍我は少し口元を緩ませた。

そして不快に思った朱羽が強い口調で言い放った。

「紅也、出ておいきなさい。」

「うるせェよ。」

そう言った紅也は杏華の隣に座り、杏華の首に手を廻した。

「紅也君・・?」

「テメェなんかが杏華と結婚したら可哀相だろ。」

「同感ー」

龍我も頷いた。

「紅鈴は絶対親父と同じ事するね、御前は親父似だしな。」

「黙れ!」

希森が叫んだ。

「おーおー。言うねぇ、親父殿。ていうか良く紅鈴と杏華の事なんか進められるよな。真魂さんも可哀相じゃねぇか。」

「紅也!!!!」

「だいたいさぁ、起龍さんもなんで進めるわけ?」

「紅鈴はしっかりしてるからな。」

「ふぅん・・・。」

「あ、あの・・・・・。」

はぁ、と溜息をつき、紅鈴は言った。

「じゃぁさ、今は一応待ってるよ。だから・・そうだな、3日後に返事聞かせてよ。」

「・・・・。」

「それなら杏華も考えてくれるだろう?」

「はい・・。」

「じゃぁ僕は失礼するよ。紅也なんかと喋ったから気分が悪い。じゃぁね、杏華。」

「全くだ。」

「それでは、うふふ。よーく考えてくださいまし。」

紅鈴の冷たく酷い言葉に、両親も同感していた。

そして、起龍が紅也に問いかけた。

「御前、まさか・・・」

「嗚呼。知ってますよ?」

「・・・。」

「やだなぁ、俺は別に親父の事しか恨んでませんよ。真魂さんには逆に謝りたいくらいです。」

「すまんな。」

「起龍さんは悪くないですよ。悪いのは親父なんです。」

紅也はにこっと笑った。

その横顔は少し切なく、淋しそうだった。

「さぁ、夜も遅いのでお帰りになってください。」

「じゃーなぁ」

「ばいばい、紅也君。」

紅也は無言で手を振った。
第四章 橙の朝
帰った後は、直ぐに寝てしまった。
色々あって疲れたのだろう。


そして朝、杏華の部屋ではかわいらしい音が鳴った。
目覚ましだろう。

「ん……。」

杏華はゆっくりと目をあけ、体を起こした。

「ふわぁ……。」

そして顔を洗い、身仕度をし、敷地内にある道場へと向かった。

「あれ…?鍵開いてる…?」

いつもは杏華が開けているので、杏華が逝った時に開いてる事は
滅多にないのである。
杏華は恐る恐る扉をあけた。

「あ」

「え」

「龍我!」

「嗚呼、おはよ。」

龍我はニッと笑った。

「龍我……早いねっ…?」

「ちょっとな」

「体術の練習?」

「嗚呼、どっかの誰かが俺より出来るらしいからな」

「………。」

「そうだ。久し振りに軽く組み手やらね?」

「え……?」

「俺のが強いこと示してやんねーとなっ!!」

「……っ」

杏華はクスッと笑った。

「龍我らしいね。いいよ、やろ。」

杏華は龍我の前に立ち、深い深呼吸をした。
少し強張ったように見えるのは、久し振りにするからだろうか?
それとも、相手が龍我だからなのだろうか。

「いくぜ?」

「いつでもどうぞ?」

「ッッ!」

龍我は早速杏華に殴りかかった。
両拳が凄いスピードで杏華にくらいつくが、杏華はそれを越えるスピードでよけてゆく。

「龍我っ……早くなったねっ…っ」

「横ッ腹ガラ明きっ!」

「きゃっ……」

龍我は杏華の横腹を力いっぱいに蹴った。

「ッ………」

今の一撃で本気になったのか、杏華も攻撃に廻った。
さっきまでとは雰囲気が全然違う。別人のようだ。
無言で龍我を攻め続ける。

「杏っ……ちょ…;;」

「駄目。」

龍我のガードが甘いところをピンポイントで、しかも一撃一撃がかなりの衝撃になる。

「刃(は)!!」

杏華の掌からは刃のような風が現れ、龍我は見事に空中に吹き飛ばされた。

「うわっっ!!;;」

杏華は龍我の下で構え、龍我が落ちてきた時に両手を使い、龍我を投げ飛ばした。

「ハイ。龍我の負ーけvv」

「くっそー……。」

杏華はニパッと笑いながら龍我に手を差し出した

「立てる?」

「さんきゅ」

龍我は手を握り、立つかと思えば、手を引っ張り杏華を引き寄せた。

「きゃっ……///」

「杏華つーかまーえたー♪」

杏華は龍我に倒れ込み、龍我は杏華を抱きしめた。

「りゅ……っ」

「杏華…紅鈴との事どーすんの……?」

「わ……わかんない…」

「やめろよ……」

「わかんない……」

「っ……」

抱きしめる力が更に強くなった。

「やっ………龍我ぁっ」

「杏華がアイツと結婚とか認めねぇから……」

「え……?」

「絶対……ただの婚約だとしても…杏華がアイツん所行くって言うなら、
俺は一生杏華をどっかに閉じ込めとくから……」

「……一層の事閉じ込めててよ…」

小さな声でそう言った。

「え…?」

「何でもないっ…」

「「……。」」

沈黙が続く。
何分が経っただろうか。
龍我は杏華を放そうとはしない。
だが

「杏華……?」

「………すーすー…。」

杏華は龍我の腕の中で眠っていた。

「………よっ…と。」

龍我は杏華を抱き上げ、道場の外に出た。

「とりあえず俺の部屋にでも置くか……」

「何をしているんだい?」

外には紅鈴が居た。

「別に」

龍我は立ち止まらずに家に入り、自分の部屋のベットに寝かせた。

「ったく……人の気も知らないでこんなツラして寝やがって…」


それは橙色の朝日が輝く朝の事だった。
第五章  橙明けのちわ喧嘩
静かな龍我の部屋。
そこには龍我と、龍我のベットで眠る杏華が居た。

「こいつ何時まで寝てンだよ…;」

龍我は何気なく杏華の前髪に触れた。

「ん……?」

「あ、起きた。」

「りゅ……が…?」

「おはよ、杏華。」

「おはよ……?あれ…?」

「杏華、道場で寝ちゃったんだよね」

「え……じゃぁ運んでくれたの……?」

「当たり前じゃん。…杏華、重くなったンじゃね?」

「…………。」

「杏華?」

杏華は小さな波動を龍我に向けた。

「もう一回飛ばして欲しいの?」

「え……何……待っ」

そのとたん、龍我は部屋の隅に飛ばされた。

「痛っ……」

「さっきさぁ何て言ったのか聞こえなかったなぁ……?
もう一回言ってみて…?私の体重がどうしたの?」

杏華の笑顔はかなり怖い。

「すいませんでした」orz

「もうっ……」

杏華はまるで小さな子供のように頬を膨らませた。

「(御前のそーいう所が……)」

「龍我?」

「杏華ってさぁ……可愛いよな…」

「えっ……///
龍我っ…………?///」

「っ……。」

「や…やだっっ……冗談きついよぉっ……///」

「照れすぎ。」

龍我は杏華の髪を優しく撫でた。

「りゅっ…///」

「そんなに照れる必要あんの?」

「だってっ……龍我っ朝から可笑しいっ……///」

「(取られたくねぇんだよ……ッ)」

「龍我………?」

「……杏華からかうのって面白いじゃん?」

「なっ……」

「すぐ赤くなるしさぁ。弄り甲斐あるし。」

「好きで赤くなってるんじゃないしっ……。龍我なんて私と身長3aしか代わらない癖に!」

「身長関係ねーし。それに結局は自分の方が小さいの認めてるし。」

「っ……」

「うわー認めちゃったねー、杏華サン♪」

「へー…。龍我は私が龍我より高くなっちゃってもいいんだぁ?」

「高くなれるならな」

二人とも笑っている。
杏華の笑みは妙に怖く、龍我の笑みは無邪気きわまりない。

「龍我の癖に生意気だよぉ。誰のお陰で赤点免れてるのかなぁ?」

「俺自身?」

「え?違うでしょ?」

「……(キレた!!)」

「テスト前に誰が教えてあげてるの?」

「あ……杏華さんです……」

「だよね……?」

「(あ、戻ってきた。)
勉強も武道もかてませんよーだ。」

龍我はその場に寝転んだ。

「そんな事ないよっ……」

「ずっと一緒に居たのに…何でこんなに差が出るんだか」

「龍我がいつも寝てるからだよ…」

「ねみーじゃん…」

「でもっ…」

「俺は杏華とは違うのー」

「むぅ……」

杏華は龍我のクッションを抱きしめた。

「(可愛……)なぁ、腹減らね?」

「あー…もうこんな時間だぁ」

時計の針は12時半を指していた。

「バーガーでも食いに行く?」

「うんっ」

杏華と龍我は外に出た。

二人は知らなかった。

出ていくところを紅鈴と輝朱森が見ていた事を……
第六章
「ねー…りゅーうーがーぁ」

「え?…………あぁ…」

龍我は杏華の手を握った。
前にも言ったが、付き合っている訳ではない。
小さい頃の名残らしい。

「龍我ー何にするのぉ??

「俺は…魚貝バーガーとサラダとコーラかなぁ…」

「じゃぁ私はライスバーガーと紅茶にしようかなっ……。
買ってくるから待っててねっ?」

「え…。大丈夫か…?」

「龍我心配しすぎっ…」

「じゃぁ待ってるな。」

龍我は席に行った。

「(あいつ……誰かに声かけられてないかな……?)」

その心配は現実のものとなった。

「ねーねー、一人?」

「私ですかっ……?」

「うん、君だよー」

「えと…幼なじみが……」

「俺達と遊ばない?」

「えと……」

「ねー、いいでしょ?」

二人のうち一人が杏華の手を掴んだ。

「やっ……」

「おい、欄ー、ビビらせたら可哀相だろー?」

手を掴んだのは欄(らん)と言うらしい。

「ビビらせてねーよ。俺は計と違うしー。」

注意をした人は計(けい)と言うらしい。

「あ、あの……離して…」

「え?駄ー目」

「でも…その………っごめんなさい!!」

「え…」

途端に杏華の側に風が吹き、二人は吹き飛ばされた。

そして

「龍我っっ……」

「遅かったなぁ」

「うんっ…ちょっと…ね」

杏華はニッコリと笑った。

「まさか……」

「えー?大丈夫だよっ……?」

「んー…」

その時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「りゅーがーー!!」

「え?」

「杏華ちゃーん」

「蒼剣君と…蒼藍ちゃん…?」

「龍我と玲ちゃんも昼飯?」

「嗚呼。」

「今日も仲良しさんなんだね〜」

「えへへ…」

「なぁ、俺等も此処で食べていい?」

「いいよ〜」

話しはかなり弾んだ。
普段から仲が良い事もあり、会話が絶える事はなかった。

「そーいえば、玲ちゃんってさぁ」

「なぁに?」

「龍我以外の人呼び捨てしないよなぁ」

「確かに〜」

「あれって何で?」

「……?何でだろ……?」

杏華は龍我の方を向いた。

「何で俺が知ってンだよ;;」

龍我は笑顔を引き攣らせて答えた。

「むぅ……馬鹿ッ…」

「ちっ……」

杏華の膨れた顔から顔を逸らす龍我。
どうやらこの表情には弱いらしい。

「龍我と」

「杏華ちゃんは」

「「ずっと一緒だからじゃ…?」」

蒼藍と蒼剣の息はピッタリだった。

「んー…でも私達ってさ、従兄弟だから一応血繋がってるよねっ…?」

「あー。確かに。」

「じゃぁ結婚出来るんだね〜」

「Σ……っこら!!」

龍我の顔はどんどん赤くなってゆく。

「良かったなぁー、龍我vv」

「どーでもいいから!!」

「本当は嬉しいくせに〜」

「嬉しくねェよ!!!」

「照れンなよ龍我!」

蒼剣は龍我の背中をバシッ!と叩いた。

「っ………てぇ…」

「りゅっ………大丈夫っ…?」

「うわー…。玲ちゃん優しー」

蒼剣はニヤけながら、蒼藍は微笑みながら二人を見ていた。

「なんだよ…」

「いやー…べっつにー??」

「龍我君は幸せ者だなぁ〜って〜」

「もしかして、玲ちゃんがいないと生活出来なかったりしてvv」

「なっっっ///」

「龍我君、赤いよ〜?」

「赤くねぇよ!///」

龍我は力いっぱいに否定した。
絶対杏華に悟られたと思った瞬間だった。

「龍我ってもしかして…」

「(ヤベェ!)」

「好きなの…?」

「(きたぁ〜vv)」

「あ…あぁ…。」

「「(言ったーっっ!)」」

「やっぱりぃ!」

「は?」

「え?」

「龍我、蒼藍ちゃんの事が好きだったんだねっ!」

「杏華ちゃん…;;」

「玲ちゃん…」

「私の思った通だぁ。蒼藍ちゃんに言われたら赤くなってたもんねーっ」

杏華は満天の笑みで言った。
勿論、本心から思っていた。

当然その場には沈黙と思い空気が流れる。

「杏華…誤解だから…」

「えっ……?」

「龍我君が好きなのは、私なんかよりもっと可愛くて、強い子だよ」
蒼藍は優しく微笑んだ。
と、同時に杏華はその人物を考え出した。

「うーん……。柚春ちゃん……?
それとも…柚聖ちゃん…?」

「……。」

龍我は怒っているのかもしれない。
いきなり、すごい怖い顔をして立ち上がった。

「……オイ…」

「なっ……なんだ…?;;」

「そろそろ行かねぇか…?」

「あっ…嗚呼…」

四人は龍我の剣幕に負け、店を出た。
第七章 台風後晴れ
龍我は怒っているのか、一言も口を開かない。
そして原因である杏華はそれが分かっていないらしい。
何回も龍我に話し掛けては無視されている。

「龍我ってばーぁ」

「…」

こんなことが何回も続いていた。
流石に見ていられなくなった蒼剣が、龍我を/WC/に引っ張っていった。

「なんだよ…。」

「玲ちゃんのこと、無視しちゃ駄目だろー?」

「うるせぇ…」

龍我は軽く舌打ちをした。

「玲ちゃんは純粋だから気付かないだけなんだって。」

「純粋すぎンだよ…」

「でもそれって逆に良くね?」

「は」

龍我は顔をしかめ、蒼剣はニカッ、と笑った。

「何も知らないってことはさ、何しても良いって事じゃん。
抱き着いても受け入れてくれそーじゃん?」

「まぁ…それは確かに…」

「だろ?」

「嗚呼…」

「はい!分かったらさっさと戻る!」

蒼剣は龍我の背中を押した。

「うわっ」

そして……


「あ、出て来たー」

「蒼剣遅い〜。今、杏華ちゃんとアイス食べてたんだよぉ」

「わり」

蒼剣は頭も下げずに軽く謝った。

「龍我も食べるっ…?」

「え…あ……嗚呼…」

「じゃぁはい、あーん」

杏華はアイスを掬ったスプーンを、
龍我の口元に持って行った。

「ちょ…いいって…」

「駄目ー!」

龍我は仕方なく口を小さく開いた。
そして杏華は龍我の口にアイスを入れた。

「美味しいー?」

「ん、ちょっと甘い…。」

「えーっ……」

二人はいつの間にか何時もの二人に戻っていた。

「龍我ずるーい!!
俺も!玲ちゃん俺もーっっ!」

「はいはい♪」

杏華は蒼剣の口にも入れた。

「あまーいうまーい(*´▽`*)」

「杏華ちゃん…自分で買いに行かせればいいのに〜」

「いいんだよぉ」

「蒼藍はケチだなぁ…」

「うるさーいのー。」

「蒼剣君、そんなこと言っちゃだめー」

「…龍我ーっ。玲ちゃんが厳しいこと言ってくるーっ」

蒼剣は龍我に抱き着いた。

「うわ、気持ち悪ッッ」

「がーん…」

「あははっ」

「くすくす…」

杏華と蒼藍はその光景を見て笑っていた。

「あ、ねぇねぇ」

「なぁに?」

「春休み終わるまで毎日遊ぼー?」

「お、いいじゃん。なぁ、龍我?」

「嗚呼、そうしよう」

「楽しそう〜」

この後、4人は予定等について話し合った。

向日葵色の残りの春休みを…
第八章 桃とアオリンゴの再開
あれから数日。
今日は始業式である。
毎日遊んでいた身体を切り替えなければいけない。
さぞ辛くなるだろう。
特にあの男であるー…。

「龍我ーっ!くぉらーっ!!」

龍我の部屋の前で母、美紫が叫んでいる。

「あ…と…ごふ…」

「んな時間はねーんだよ!早く起きろ!!!!」

「むゅ……り……Zzz…」

「ったく……。」

美紫はハァ、と溜息をついた。

「知んないからな!!」

美紫は下に下りた。
勿論龍我は布団の中である。

……ピンポーン

「おはようございます〜」

杏華が来た。

「あ、おはよう、杏華ちゃん。」

「龍我は…」

「それがな…まだ寝て…」

その時、階段で凄い物音と共に龍我が下りて来た。

「龍我…っ」

「あ…はは…………はよっ…」

「跳び起きたの…?」

「あ…嗚呼…」

龍我は恥ずかしそうに頬を掻いた。

「早く顔洗ってきな!」

「わーってるよ!」

龍我はバタバタと洗面所に駆け込んだ。

「ごめんな〜杏華ちゃん、あんな息子で」

「いえっ…もう慣れちゃいました。」

「…杏華ちゃんはいい子だな。」

「ひゃうっ///」

美紫は杏華の頭を撫でた。

「あたしもこんな可愛い娘が欲しかったぜーっ」

「そしたら龍我は私の弟ですね」

「そうなるな。」

二人の会話はかなり弾んだ。

「おーい杏華ー…支度できた…って…
お前ら…何そんなニヤけてんの?」

「あ、今ね、私が伯母さんの子だったら…って話してたの!」

「……で?」

「龍我が私の弟に……。…きゃうぅっ!!!;;」

龍我は杏華の頭を叩いた。

「馬鹿な事言ってねーで行くぞ。」

「うっ…うんっ…(痛い…)」

龍我は玄関に向かって歩き出した。

「待ってーっっ」

「気をつけてな」

「はい、行ってきます!」

杏華と龍我は家を出た。

「なぁ杏華…」

「はい?」

「クラス分け、どーなってると思う?」

「あ、あのね、私・龍我・蒼剣君・蒼藍ちゃん・柚春ちゃん、
全員一緒だよ?」

「何で言い切れンの?」

「もう解りきってるからだよ」

「なんで?」

「ひみつー♪」

「ちょ、教えろよ」

「いーやvv」

「Σ お、オィ!」

杏華はいきなり走り出した。

「早くしないと遅刻だよー?」

杏華と龍我の追い掛けっこが始まった。

「待てーっっ!!」


数分すると学校の近くまで来た。

「ねぇ、龍我?」

「なっ…だ………ゲホ」

杏華には疲れは見えないが、
龍我は 肩で息をしていた。

「正門まで行くの面倒だよねっ…」

「っ………で………?」

「この壁越えちゃお」

「はぁ?!」

杏華は言ったと共に3bはある壁の上に片手だけを着いて、
そのまま壁を飛び越えた。
龍我でさえも一回上に足を付き、下りなければならないが、
杏華はそれをしなかったのだ。

「杏華、これ持っとけ!」

龍我は壁の向こうに居る杏華に鞄を投げた。

「…よ…っと」

真上にジャンプし、両手を着いて上に足を付く。
そして下におりた。

「お待たせ。」

「はい、鞄」

「行こうか。」

二人は校舎に向かった。

今日からは学校生活、
桃と緑の生活が再開した。
第九話 再開と再会
二人は2年の校舎に入った。
廊下にはクラス分けの紙が貼ってある。

「龍我っ…、見なくてもいいんだよっ……?」

「あっ…」

杏華は一直線にA組に向かった。
どうやら本当に分かっているらしい。

二人は教室に入った。

「おはよっ……。」

「杏ーっっっ!!!」

とたんに柚春が杏華に抱き着き、ほお擦りをした。

「杏っ…会いたかったーっ!」

「柚春ちゃんっ……///」

「おい祝ー、玲ちゃん困ってるー。」

蒼剣が少し怠そうに言う。
蒼藍ははぁ、と微笑みながら溜息をつき、
龍我は唖然としている

「仕様がないだろー。
この流れるような黒髪!なんでも軽くこなす身体能力!!
細身なのに出るところは出てる身体!!!
あたしが惚れないで誰が惚れる!?」

「(俺だよ!!)」

龍我は瞬時に思った。

「ゆ…柚春ちゃ……っ///」

「んー?」

「はーなーしーてー…」

「どーしよっかなぁ?」

「離してくれないと、もう遊ばないっっ」

「Σ それは困るな;;」

「じゃぁ離して?」

「仕様がねーなぁ…」

柚春は杏華を離す。

「柚春ちゃんは、本当に杏華ちゃんが好きなんだね〜」

「当たり前だろー。杏と一つ屋根の下で暮らしてる玲が羨ましいぜ。」

そう、杏華と龍我の家は所謂、二世帯住宅のようなもの。
いちいち外へ出なくても互いの家に行き来出来るのだ。

「一つ屋根の下ねぇ……;」

龍我は頬を掻く。

「一応鍵つきの扉はあるよ?
繋がってるのは二階だけだし。」

「それでも羨ましい!
なぁ、サル?」

「え?サル?俺?」

蒼剣は苦笑して人差し指を自分へ向ける

「お前以外に誰が居るンだよ?」

「龍我とか?」

「こいつぁ美形だろ?」

「美形って…;;」

龍我は頬を掻いた。
確かに龍我は少しカッコイイ。
長い金髪を後ろで一つに結ったり団子にしたりしている。

「ったくー。お前は顔で決めンのかよー」

「…お前はな。」

「……;;せーいえーい!」

「ん?」

「祝が酷い事言ってくるーっ」

「いつものことでしょー?」

蒼藍は蒼剣の頭を撫でた。

「祝も蒼藍みたいに優しかったらいいのにー。」

「なんだよそれ?シスコンか?」

「ちげーよ!!」

「えーっ、蒼剣君ってシスコンだったのっ…?」

「玲ちゃんまで!!」

「蒼剣…俺、ちょっと引く…(笑)」

「……俺、こんな所に居られねーっっ(涙)!」

蒼剣は教室を飛び出そうとした。
が、誰かにぶつかってしまった。

「おわっ!」

「おっと、ごめんね」


その声の主の登場で、杏華と龍我は忘れていた、
あの事を思い出すことになる。
第十章 嵐の前
「杏華を呼んでもらえるかな?」

「あっ…はい!!」

蒼剣は直ぐに杏華達のもとへと戻った。

「サル?」

「玲ちゃん…」

「はい?」

「えと……三年の紅鈴さんが……」

「「あ!!」」

「杏?」

「龍我君〜?」

「龍我っ…」

「嗚呼……。」

「忘れてたっ……」

そう、杏華と龍我は婚約の事をすっかり忘れていたのだ。

「と…とりあえず行ってくるっ…」

「なんかあったら呼べよ?」

「うんっ…」

杏華はとりあえず紅鈴の元へ行った。


「やぁ、久しぶりだね?」

「はい……」

「ん?どうかしたの?」

「あのっ…ごめんなさいっ…」

杏華は頭を下げて謝った。

「気にしなくていいよ。それより…」

「きゃっ…」

紅鈴は杏華の横の壁に腕を着いた。
そして真っ直ぐに杏華を見る。

「ねぇ、僕の事気になったりしないの?」

「しませんっ…」

「ふぅん…。すっごい度胸だね」

紅鈴は身体が触れるくらいまで杏華に近付いた。

「やっ…」

「普通だったら嬉しいのにね?」

「っ……龍我ぁ…。」

「君は何かと龍我なんだ」

と、嘲笑したときだった。

「御呼びですか?お姫様?」

怠そうにしている龍我がそこにいた。

「え?何してんの?セクハラ?」

龍我は何時も通りに笑った。

「あー嫌だねー。なんでこんな奴が年上なのかねー」

「お前こそ、人にとやかく言う前にその格好を何とかしろ。」

龍我はかなり制服を着崩している。
カッターシャツのボタンは真ん中しか止めず、ネクタイも緩めて結んでいる。
そしてズボンは引きずっていて、靴も踵を踏んでいる。

「別にいいじゃん」

「校則違反だろう?」

紅鈴と龍我の間には火花が飛び散る。

「……紅鈴、後ろ。」

「?」

紅鈴が後ろを向くと、龍我から見て右から小石が飛んできた。

「っ……貴様っ……。」

「うわぁー痛そー。」

「許さん!」

紅鈴は人差し指を龍我の方へ向けた。

「何だよ?」

「とりあえずその腕でも貰っておこうかな」

紅鈴は黒笑し、術を発動させた。
とたんに指先からは無数の黒いモヤのようなものがハイスピードで出てきた。

「っ…龍我!」

スキをみて紅鈴から離れた杏華もモヤよりも先に龍我の前に立ち、
術を発動させた。

「刃ァッ!」

左手を添えながら前に延ばした右腕の先、手の平からは、
数え切れない程の刃がとんだ。
その刃はどんどんモヤを消して行く。

「多っ…」

だがやはり悪魔術は強力なのだろう。
流石の杏華でも刃だけでは太刀打ち出来ない。

「杏華っ……」

「っ…」

遂に添えていた左手を外し、
左手からいくつも大きな炎を出した。

「Queenっ…!」

モヤは一瞬止まった。
その間を杏華は逃す筈はなかった。
即座に紅鈴の所へ行き、術を発動させた手を掴んだ。

「紅鈴様っ……」

「なんだい?」

「辞めてください…。今のはシャレになりませんっ…」

「いいじゃないか」

「……!!」

紅鈴の手を掴む手に力が入り、人差し指の爪を折ってしまった。

「痛いな…」

指から流れる血を余裕の笑みで舐める紅鈴。

「今日はこれくらいで勘弁してあげるよ。
…杏華の事は諦めないけどね」

それだけを言い、後ろを向いて歩き出した。

「あ、そうそう、龍我。」

「?」

「君はいつも杏華に頼りっきりだよね。
いつまで杏華に助けてもらうつもり?」

「……!」

『頼りっきり』

その言葉は酷く龍我の胸に突き刺さった。
第十一話 嵐の前A
―俺は無力かもしれないー

「……が、龍我?」

「…あ、何?」

教室に戻り、始業式も済んだ。
だが龍我はずっと何かを考えこんでいる。

「龍我、ずっと変だよ?」

心配そうに龍我の顔を覗き込む杏華。

『頼りっきり』

「大丈夫だから…。ひっつくなよ。」

「ごめん……」

杏華は今にも泣き出しそうだった。

「(何でそんな顔すんだよ…)」

「ごめんなさい…っ」

「……もういいよ。もう先生来ンだから席座れよ。」

「うん…」

龍我の横が杏華の席である。

――何で俺は杏華に当たってンだよ

「クソっ……」

思わず声を出してしまった。
そして杏華はそれを聞き、身体を震わせる。

「杏華……」

「なっ……何…?」

「今日…俺一人で帰るから…」

「え…なんで……?」

「……。」

「ねぇっ……」

「…悪い。」

「………っ…わ…かった」」

「ごめん……」

杏華の身体の震えは止まったが、淋しそうな横顔は変わらない。

紅鈴のふとしたひとことがもたらしたのは嵐だった。
第十二章
杏華は仕様がなく一人で帰った。

「ただいま……。…お母さん?」

居間の机の上にはメモが置いてあった。

___________________

杏華へ

少し出かけてきます。
夕方には帰れると思うので、
夕飯の準備をしていてください。
PS
ちゃんと勉強するのよ

       真魂
___________________


杏華は、はぁ、と溜息をつき、階段を昇って自分の部屋に入った。
そして参考書を開き問題集を解き始めた。

「三角形ABCの面積が30平方糎の時、四角形AXYZの面積を証明で求めよ……。」

杏華は答を書き始めた。
だが少し書いただけで又溜息をつき、
椅子から立ち上がり制服の上着を脱ぎ捨てて、ベットに倒れ込んだ。

「はぁ…」

そしてリボンを外し、カッターのボタンを2、3外した。

「暑っ……」

すると突然、部屋の窓がコンコン、と音をたてた。

「はい……?」

「杏華、国語辞典貸してくれ。」

入って来たのは紅也だった。

「勉強しないのか?」

「疲れた」

「………。」

「ちょっ…」

紅也は仰向けの杏華の上に覆いかぶさった。

「やめてくれない?」

「随分性格が違うんだな」

「そう?」

「嗚呼。」

「…なんでもいいけど、どいてほしいな?」

「…じゃぁこんな誘ったような格好するなよ」

「してないよ。」

「五月蝿ェ。襲うぞ?」

杏華は少しムッとした後にクスクスと笑った。

「勝手にすれば?心配しなくても今日は龍我は呼ばないから。」

「……」

「ん…っ」

紅也は杏華の唇に自分のを重ねた。
紅也にも杏華にも深い想いは無い。

「っ…紅也君はやっぱり紅鈴様の兄弟だ。」

「何を根拠に?」

「遊び人」

「杏華もだろ?」

「違うよぉ?紅也君が物欲しげだったからだよ。」

「何だよそれ…;」

「…紅也君…」

杏華は紅也の額に人差し指を付けた。

「杏華…?……っってぇ!!」

どうやら紅也に電流が流れたらしい。

「おまっ……;」

「さっきのはこれでチャラだよ?」

「いってぇー…。」

「ふふっ」

杏華はにこやかに笑った。

「ったく…。あ、そうそう、国語辞典貸せよ。」

「はいはい。」

杏華は本棚を漁った。

「『946の政治』に『大学理数の未知数』…、他にも…よくこんなに集めたなぁ…」

杏華の本棚には沢山の本が並んでいる。

「そう?全部面白いよ?……っと…はい、」

杏華は紅也に辞書を手渡した。

「サンキュ。」

「さ、じゃぁ私も晩御飯の準備でもしようかなぁ」

「おばさんは?」

「なんか出掛けちゃったみたい。」

杏華は苦笑した。

「一人で大丈夫か?」

「当たり前だよぉ〜。」

「そっか。」

ー『なんかあったら呼べよ』

そう言って、紅也は窓からまた帰っていった。
それから杏華も下に降りていった。

ー何か違うー
杏華はそう感じていた。
第十三章 柚春の企み
朝、いつものように日が昇った。
そして杏華は学校に居る。
今日は一人で登校したのだ。

「(何も言わないで行っちゃうなんて…)」

杏華がクラスに入ると、いつも通り蒼藍達が集まっていた。
勿論龍我も居る。

「おっはよー玲ちゃん!」

「おはよぉ〜」

「杏が玲と来ないからびっくりしたぜ。」

「……(一人で来たのか…)」

杏華は少し返答に困った。

「う…うん…。」

「何かあったの〜?」

「なんにもないよ…?」

「怪しい…」

と、蒼剣は杏華を見詰めた。

「お、出た。サルの第六感。」

「出たの〜。」

「玲ちゃん…」

「は、はい;;」

「……いや、やっぱ止めとく。」

「え…;;」

蒼剣はニカッと笑った。

「玲ちゃんにだってプライバシーはあるしー、
俺、死にたくないもん。」

蒼剣は龍我を見た。

「なんだよ…?」

「べっつにー?」

「……ふむ、龍我君は知らなくてもいーのー」

「ちょ、オィ;;」

「…へぇ……。杏も寂しかったんだよな…」

「俺が何したんだよ…?」

「………っ。」

杏華は龍我から目を逸らした。

「おい、蒼藍、」

「ん?」

「放課後大丈夫か?」

「大丈夫だけど…柚春ちゃん?」

「ちょっとな。っと…サル!」

柚春は蛍兄弟を手招きした。

「なぁに〜?」

「俺、サルじゃな…おわっ」

「いいか、聞け」

柚春は蒼剣の襟首をひっぱり、
2人にそっと耳打ちした。

「………で……してくれ。」

「あ、そーゆーこと。りょーかい!」

「私も〜」

「柚春ちゃん……?」

「あ、杏は心配しなくていいからな?」

「ん…」

そういわれても、気になることはやはり気になる。

「よし!」

そして、柚春は何を思い付いたのだろうか。

「(よーし…。絶対元に戻してやるー!!!)」


どうやら柚春も龍我も本物の馬鹿らしい…。