恋のハーモニー



by
かの




「るい〜!!!きてきて☆駅前でかっこいい二人組みがライブしてたっ」

ち私に話しかけてきたのは親友の野沢カレン。

黒一色のその髪が印象的な明るく‘綺麗‘な女の子。

そして、私。菊池るい。高校入学と同時にほんのりと

茶髪に染めた髪の毛にナチュラルメイクが今日も映えている。

「え〜どうしよっかなぁ・・・。」

と考えてる間もなくカレンに腕を引っ張られ

A駅の正面に連れられた。

普段は人影も少ないこの駅が大勢の人で埋め尽くされている…。

すごい。。。

カレンは積極的で人を押しのけて進んでいく。

「ちょッ・・・カレン!!!」
「るい!早く!ほんとにかっこいいんだからっっ」

と興奮する口調で言うと、またもや腕を捕らわれた私。

〜♪〜♪

わあ男らしい歌声だア…。ロックだ…

歌唱力がずば抜けている。


そして、やっと姿を私はこの目に映すことに成功した。


どきっッッ
うわ…左のボーカルの人やばい。。

カッコいい…。

凛とした黒髪に金色のメッシュが入っている。
そして何より私の目を惹いたのが



瞳。


カラーコンタクトを入れてるのか、
深い紺色に染まったその瞳を見つめるたびに
私の胸の鼓動は速度を増していく…。

カレンは右の人に夢中っぽい;
ちょっとよかったって安心してしまう。。。


何故? 


右でギターの弦を激しく振るわせているその人は
明るい茶色に全体が染まっていて笑顔がかわいいって結うのが私の印象。

でも私の視線はあの人に釘付け…なんだ・・・。

演奏が終わった。人ごみが段々と姿を消していく

「話しかけてみよーよ!るい♪」

カレンはお茶らけた口調で私に告げた。

…え?!無理無理絶対無理

私が下を向いて黙っているとカレンは軽々しく沈黙
を破った

「カレンねぇ右の翔クンに惚れちゃった☆
 るいは左のボーカル・瞬くんでしょッ!よかった〜なんてっ」
「ななな何で?!!知ってんのぉ;;てゆか何で名前まで??」
「カレン天才だから☆あは@やっぱそうなんだ…♪だから行こうよ。
 そんなんじゃ恋は叶わないぞっ」

カレンに今最も言われたくない言葉を言われてショックを受けた。

‘恋は叶わない‘か・・・
そうだよね。


だって私、今前向きで素直なカレン見てて気づいた…

ボーカルの瞬君が   好き     …


これが一目惚れってやつかな?
えへへ・・・なんかくすぐったい

よく鏡で顔をチェックしてかなり緊張する面持ちで二人は
片づけをする瞬と翔のもとへ駆け寄った。

カレン…こうゆーの慣れてそうだけど
やっぱカレンも本気なんだね、私と同じ。

「あのっ」
最初に口を開いた勇気のあるカレン。

すると翔は笑顔で対応した
大人の対応ってやつ。

「ああ!ど真ん中できーてくれておおきに!」

関西弁なんて初めてなまで聞いた。

カレンは耳まで顔を真っ赤に染め
髪を掻き分けながらやや下を向いて。

「いえっ;;また路上ライヴやるんですか?翔君たちの歌大好きなんで
 頑張ってください!]

とどんどん会話を切り開いていけるカレンはすごい。

楽しげな会話を横で聞きながら私は小さな決意をした。

私もっ…話しかけるッ…

「えと…カラコン入れてるんですか…?!」
って何きいてんの私?!!!

初対面だよぉ…バカ…

いつもこうだよ、、、好きな話すとき、、、、


「気づいてくれたんや!ほら目って大事やん。その人を表すってゆー♪
 だから俺は好きな紺色に染めたん」

とその蒼い目を優しく細めて答えてくれた…






どきどきどき…
止まらないよ…
どきどきどき

私が言葉を発せずにいると
「どーしたん?顔色悪いで?」
と瞬くんは心配してくれながら私に問いかけた。

「そんなことないですっ。」
「そか…?ならええわ。ちゅーか声かけてくれておおきにぃ。」

笑顔が煌きを放っている

「いいえ…!別にっ」
「ところでぇ俺の名前知ってる?」
「瞬…さん?」

どきどきしながらその愛しい名前を口にした−

「せーかい♪そっちは名前なんていうん?」
「るいですっ」
「るいかあ…。つーかタメでいいよ☆瞬って呼んで」

・・・・・・・―――いいの?
私があなたのことを呼び捨てにしてもいいのですか―
嬉しいよぉっ。。。

「わかりま…あっわかったぁ!瞬っ」
「それでいいのだっ@るーい♪」

瞬って私と同い年なんだ―
っていうかそんなことより…;;

こんな急展開―
幸せだよ―…瞬…初対面の私に優しすぎるよぉ







そんなので別れたんだった―
幸福な時間―

またライブやるのかなぁ?
あるならまたあの瞬のハスキーボイスをききたい




ブーブー
メールだ。瞬のメルアドも聞いておけばよかったと後悔しながら受信ボックスを開く。カレンだぁ♪

{るい今暇?}

素早く返事を出す

{全然!}
{じゃぁ遊ぼう!今駅のスタバいるから〜}
{今すぐ行くね☆}

急いでパジャマ姿から私服に着替えて
駅へと自転車を飛ばす。

「カレン!お待たせ〜」
「大丈夫だよぉ☆」

ミルクティーを注文した私とカレンはすぐに
あの話題へと移った。

「瞬くんと金曜日何話したの?」

ついついニヤける私。

「ん〜呼び捨てで呼び合ったよ!」

カレンには何でも話せるの。

「それと?」
「ぇ…それだけぇ」
「メルアドは?ケー番は???!!!」
「聞けないよ!はずいもん…」
「まぁるいはシャイだからねぇ」
「そーゆーカレンは?!!」

ピロピロリ〜ン♪
おそらくカレンのEメール受信音。

「あー♪翔からだー!ってな感じ♪」

そう得意気にカレンは言うと私にケータイを差し渡してきた。

{今度会わねぇ?}

「えーーーーーーーーーー!???」

私はすごいビックリした
そこまで仲が深まってきてるってこと…
それに比べて私はっってちょっと凹んだりもする。。。

「フフフ…♪…でもなーいきなり二人ってのも緊張するな;;」

とカレンは口にすると私を見て不敵な笑みを浮かべた

「そぉだぁ!るいと瞬君も来てよ!」
「・・・え???」

頭の中が真っ白になった
4人で遊ぶ・・・?それって超ハッピーだょぉ!!!

渡しすぐさま満面の笑みで返事をした


お洒落してかなきゃな―…
すごく楽しみ・・・・・









瞬…あなたへの思いが日に日に強まってきています
瞬…あなたは私のこと、どう思っているのですか?
{るいです。メルアド、カレン通して翔君にきいちゃった(><)ごめんね。前はこんな私と話してくれてアリガトね☆
すっごい楽しかった♪またライブやるのかなぁ?ところで、もしよかったら、ケー番教えてくれない?
メールだと長くなっちゃうからちょっと、電話したいんだ。★るい★}

「こんなの送るなんてぇ。。。無理ぃ!!!」

今は金曜日の開放感あふれる
フードコートにカレンと来ている。
そこでうめき声を出したのは私。

「このメール!モテるってば!カレンが添削したんだから大丈夫★」
「え〜〜恥ずいよぅ・。」
「馬鹿!恋は恥ずかしいもん☆送信↑↑」

とわざと高い声で馬鹿にするように
カレンは確かに私のケータイの送信ボタンを押した。

「あ゛〜〜〜〜〜」

私は吹っ切れたようにテーブルに顔をうずめた。

「だって日曜日近いじゃん。付き合いたいんでしょ??」
「・・・。」
「ね。」
「・・・う〜」

図星・・・っていうんだねこうゆうの、うん。

「一緒に頑張ろ!!」
「うん・・・!」

カレンはいつも自分の気持ちに素直でまっすぐ―
私はいつもカレンに助けられているんだ―
支えられているんだ・・・。
こんなんじゃ駄目だ・・・と我を忘れていた私は
ケータイのメール受信音で意識を取り戻す。

「きた・・・」

期待と不安が頭の中でぐるぐる回りながら
決定ボタンを押した。親指を震わせながら。

「・・・。」
「なんて書いてあった???」

楽しそうに身を乗り出したカレン。

瞬・・・。やっぱ優しいやぁ。

{るい。メールおーきに!謝らんでええよ。うれしいし、俺。ほんまやでえ。
 番号な→090XXXXXXXX電話待ってるで!}

私の頭の中が喜びに占領された。

「やったね☆電話しよーよ、るい!」
「うんっ、…カレンありがとう!!!」

カレン・・・本当にありがとう。
思わず顔がほころぶ、私。
電話は緊張するけど
もう・・・弱気なこと言わないよ。
それくらいが私に出来るカレンへの恩返し。

プルルルルル・・・

『はいはい』
「瞬・・・?」

でっ・・・でた・・・初電話・・・。
大人っぽい声。

「えっと・・・。はず・・・。」

思わず思ったことを口にしてしまう癖。

『俺もなんかハズイわぁ・・・』

えっ・・・

「瞬も??」
『おー』

私は緊張してるのが自分だけじゃないことを知ると
妙に緊張が緩んだ。

「あのっ・・・話ってゆうのは、カレンと翔君が今週の日曜・・・
 あさってに遊ぶんだって。それで、カレンが
 私と瞬君も一緒に来れば・・・?って言ってくれて
 ・・・暇?だったりする?」
『まじで!!?超暇。俺らも行っちゃおう!なぁ。
 それじゃ翔と話し合ってまた連絡するわぁ。』

・・・うれし・・・。
電話を切った瞬間、私の涙腺が緩んできた。

「カレン・・・OKだってぇ・・・。
 また、ケホッ・・・ぅぅ〜連絡くれるって。。
 カレン〜〜ありがと〜〜」

カレンも自分のことのように喜んでくれた。
顔をくしゃっとくずしながら笑って。


―日曜日

やっときた。。。
よしッはりきろっ!!

と意気込みながら軽くナチュラルメイク、
可愛いをテーマに抜粋した服に着替え、
さわやかなアクセでヘアセットを済ますと

緊張ピークのまま、待ち合わせの・・・
そうあの四人が出会った場所A駅へと向かった。

A駅付近になってくると
誰か一人がもうすでに待っていた。

誰だろ・・・?瞬・・・?だったらいいな。

「るい!!!」

その人物は手を挙げている・・・。

あれは・・・

瞬。

近づくごとにドキドキは増える―

「瞬っ久しぶり!」

まだ約束の10分前。

「へ〜るい、時間にルーズかと思ったわぁ。」
「それはこっちのセリフだしっ!!」
「へへ。俺意外と時間には厳しいねん。」
「私もだしっっ!!」
「るいって‘だしっっ!!‘ばっかやんけ(笑)」
「・・・ですね。」

今日もあの蒼い瞳が輝く瞬―
私はその目の虜なんだよ、瞬―

しばらくしてカレン、翔君が来て
みんなでカラオケに行くことに決めた。

「俺の青春こんなもんじゃなぃぃぃ〜♪
 厚く奥で果てたいよぉぉぉ♪♪」
「下手くそ〜〜」

翔君の自称十八番とカレンのブーイング。
こんな楽しい空間味わったことない。
一言で言うと新鮮だ。

そして隣には瞬がいる―
愛しい寝顔―
そして可愛い寝息―

「よく寝られるよなぁ・・・。翔君うっさいのに。」

私はクスっと笑いながらカーディガンを脱いで
瞬にかけた―

「おやすみ・・・。」




やがてあっという間にコールが鳴って体質。
結局瞬の歌声は聴けなかった。
歌手なのに歌わないなんて・・・変なの。

「あはは・・・」
「なんやぁ?」
「今度はぁっ・・・」
「んぁ??」

言え!言え、私。

「瞬の歌声聴かせてね。」

言った・・・。
瞬は一瞬驚いたような表情を見せたが
スグにあの優しい笑顔が戻ってきて―・・・

「今度は二人で来ような。」

確かにそう告げた。

単純にうれしかったんだよ・・・
今日会えてよかった・・・

幸せ・・・・・だ・・・ぁ・・・

レジで会計を済ましていると
薄着のギャルっぽい子達が溜まっていて

「瞬だ〜♪」

・・・と。

え??誰だろう・・・。学校の友達かな・・・?
胸の中でざわめきが止まらない。

すると翔君の口が開いた。

「瞬の彼女だよ♪」












え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ざわめきはさらに大きく広がった
瞬の彼女・・・?

確かに翔君はそう言った―
今度ふたりで、ってどういう意味だったの?

不安が私を襲う
やばいなあ。私、瞬のこと本気だ・・・。
そう思った瞬間、なんともいえない気持ちになって
私は頭の中すっからかんで駆け出していた―

「るい??!」

と呼び止めるカレンを無視してまで
私は必死だったのだろうか―

行き先なんて決まってる筈もなく、
時計の針がもうすぐ9時をさす。
今は真冬。寒いにも程があるし
陽がおちるのも早いわけだから辺りは真っ暗。

「はぁ・・・。」

何がしたかったのか・・・
私のため息は真っ暗闇の街の外れの公園で
より虚しさを増した。

その時。
ケータイの着信が鳴った。
サブディスプレイには‘瞬‘・・・と。
出るか迷ったけど出たところで
‘都合のいい女‘って思われるって
その時は誤解してたから出れなかった―

瞬がこんなにもあったかいこと―
まだ知らなかったから・・・―

なぜか家には帰りたくなくて。
もう少し冬の冷たい空気に包まれて
夜空を見上げていたかった。
虚しい自分を癒すかのように―

「星がいっぱあい・・・。」

星空なんて、最近見てなかったから
驚いた。ただただ澄んでいてその中に
めいっぱいの輝きを放つ星がちりばめられている―
冬の夜のこの景色。

「なにやってんねん!!!」

凄い剣幕で誰かに腕を捕まれた。

え・・・・・っ・・っ・・

瞬・・・―

「うそ・・・?」
「嘘じゃあらへん!なんやねん!!急に逃げ出しおって。」
「逃げた訳じゃ・・・」
「翔の言うたこと気にしてんか?」

言葉をさえぎった瞬の声は
急に口調が変わった。

―気にしてるに・・・決まってんじゃんッ

泣きたくなった。
もう・・・何なの???
瞬・・・。

「気にしてないけど・。」

気持ちと正反対の言葉。

「言うとくけど、あいつ俺の女じゃないで。」

―は?

「え・・・?」
「翔、よく嘘つくから気いつけや♪」

―思考停止

「・・・なんだぁ・・・。じゃぁ誰よ。」

私の中で不安が解け安堵感に浸った。

「やっぱ気にしてたん?あいつはただのよくライブ来てくれてる
 子ぉやで。」

いかにも意地悪そうな顔つきで瞬は言った。

でも、


          でも











大当たり。

「気にしてた!すごーーーい不安だった!!
 でも今ホント馬鹿みたい!!!悪かったね!!!
 ・・・・・・好き。だよぉ・・・。」

言った、と言うより
言ってしまった。―

私の頭の中で後悔の渦が見事に完成。
最悪。まだ初対面同然なのに・・・

‘私の人生史上最も最悪な告白だと言える‘
と何度も下向きながら頭の中で思い繰り返していたら・・・


瞬が・・・







抱きしめてくれた―
「・・・しゅ・・・ん。」

やっと声を発することが出来たよ。
真冬の真夜中の公園の空気は
冷たかったけれど・・・


瞬のおかげで
顔が火照っているのが自分でも
痛いくらいわかるんだ。


「・・・めん。」

瞬は謝罪の言葉を
呟くように言うと私をゆっくりはなした。
はなしちゃわないでよ・・・ずっとこのままこうしていたいよ・・・
まだ瞬の温もりがからだ中に残っていた。

「・・・なんで謝るのっっ」

涙が出そう。何の涙か、なんてわからないけれど。
涙が出そう。

「だってお前いるやろ。」
「はっ?」

なんのことを言っているのか
瞬がまったく読めない。

「彼氏。」

か・・・れし・・・・・・・・?

「いるわけないじゃん??!!!」
「嘘つくなや。」

そう言うと、瞬は私の左手を手に取った。
薬指の根元にはめられている指輪の
ことを表しているようだった。
[誓い]とかかれたその指輪を。

「誓い。・・・な?プレゼントやろ、彼氏サンからの。」
「違うしっっ。カレンとのおソロだからっ!」

私は真実を伝え、否定した。
瞬は目を見開いてすぐさま叫ぶ。

「おまえはレズなんかァァァッァーーー!!!」

普通に笑ってしまった。
瞬って一見知的っぽいけれど意外と
馬鹿キャラなのかもね。

なんか、なんか。
瞬のこと知れてうれしい。

「馬鹿ぁっ!あはぁっ♪」
「ちゃう!馬鹿、ちゃう!じゃぁ・・・彼氏いないんかいな。」
「そうだってば、馬鹿!」
「馬鹿馬鹿ゆーなや!」
「なんでっ。そんなこときーたの?妬いた?」

正直な気持ちをぶつけてみた。
瞬はどんな反応をするのかな・・・。

「あほやんけー。おまえに妬く暇あんなら
 曲作りするわいな♪」

はぁ・・・、
思わずため息を漏らす。
やがてそれは虚しき公園の中で
白く変化し涙を誘うのだ。

「なんやっるい。泣きそーやん。」

といいながら上着を被せてくれる彼に愛しさが
溢れ出すほど感じる。
そんなご褒美にまた、きっとこれからもずっと
期待してしまうんだ。

恋なんて所詮、こんなもの。

「帰るで。るいの家何処?」

頑張ろう。。。


この気持ちが・・・溢れ出すうちは。
瞬との時間はあっという間だった―

満足感と多少の惜しみ、疑問を胸に
翌日―

疑問とは瞬が私を結局どう思っているか、だ。
昨日はあのまま普通にたわいのない会話を
して別れたから、私の頭の中には「?」が
いっぱい。

でもね・・・瞬の温もりははまだ残ってるよ―

今日は学校。
起きた瞬間に瞬のことを考える私。
私の生活は瞬で始まり
瞬で終わる。

完全にはまりきった恋―

瞬はあれだけ大人っぽいし
しっかりしているのに同い年。
なんか、自分が恥ずかしい・・・。笑

瞬と同じ高校だったら・・・
いいのに。。。
同じクラスとまではいかないけどさぁ・・・

瞬の行ってるS高校。
レベルは私のF高校とどっこいどっこい
なのに・・・なんでかなぁ・・・。
いっそ合併しちゃえッ!笑

モテるんだろうなぁー・・・
ため息をつきながらリビングに入る。

「朝から辛気臭い顔してんじゃねえよっ♪」

お兄ちゃんの薫がやたらテンション高くて
余計苛々した。

ちなみに薫ニィは只今ギャル男。
うちの親は優しい方なのか
あの爽やかだった薫ニィの変貌を初めて
視界に写したとき
「やりたいことやるのが青春じゃない☆」
って夫婦二人揃ってうれしそうに
言っていた・・・。笑

「なんで薫ニィ、そんな機嫌いいのぉ?」

いつもは立場が反対だから。
私がテンション高くて、薫ニィがむにゃむにゃと
眉間にしわを寄せてこのリビングで
対面する感じ。

するとキッチンの方からお母さんの声がした。

「彼女できたらしいわよぉ〜♪薫。」
「えぇっ??!」

驚きながら私は朝の占いなんかやってる
テレビのほうから
薫ニィに視線を移した。
自称チャームポイントの
白い歯をちゃっかり見せて
ピースサインをしていた。

「俺、美咲の迎えいかなきゃだから
 いくなっ!!母さん♪」

薫ニィは驚きを隠せない私を
無視して慌しく席を立った。

「今度家に連れてきなさいよー?」

私はただ呆然と

「当たり前だからッ☆」

その会話を聞いていた。

私には全然関係ないけど・・・サ。
彼氏がほしくなっちゃうじゃん。汗

瞬・・・私の想いをすべて受け止めて―
私の「?」をすべて解いて見せてよ―
今は授業中。大キライな数学の。

「―――〜〜。」

先生が何かの方程式なんかを
解いているけど、全然アタマに入らない。

その時、メールが入った。

ブーッブーッ

マナーモードにしてある。

先生の視線を気にしながらも
メールの内容を見た。

{今授業中やよな??すまぁん。
 よかったら放課後四人で遊ばん?}

―うっそ!瞬!

久しぶりというのはもちろん
遊びにも誘ってくれて…

あったかい気持ちはどんどん広がっていく。

すぐにクラスの違うカレンに
メールを送った。

{今、瞬からメールきて放課後
 四人で遊ばない??ッて☆}

返事は1分としないうちにきた。

{マジでッ?!!!あっったりまえ♪}

うきうきしながら瞬と
メールをし合いっこしていて
数学の授業は終わっていった。

{OK!}
{じゃぁ・・・A駅でなぁ☆五時に。}
{楽しみ!!}
{せやぁな♪}

そんな夢気分のるいを見つめている人物がいた―

「・・・菊池、
 誰とメールしてるんだろーなぁ・・・。」

―放課後

「るッい!!!」

よほど楽しみなのかカレンが
私のクラスに迎えに来ていた。

・・・まぁ私が言えないな。

「菊池!」

・・・誰?

私が振り向くと同じクラスの
城島尚輝が立っていた。

金髪で軽いやつってよく言われている
あの男子が私に何の用だろ・・・。

「ちょっと話あるんだけどっ♪」
「るい、誰ソレ?早く行こうよ。」

カレンは人の気持ちを考えないときがある。

ソレって・・・。

「カレン・・・っ!」

緊迫した空気がこの教室に漂い始める。

「・・・もーいい!先行ってるね。」

なんでよ・・・!!!

「今の友達?大丈夫?・・・こっちきてくれる♪」

と城島クンに連れて行かれたのは
中庭だった。

「何??」
「えっとぉ・・・」



「前から好きでした・・・。」
「・・・え?」

それは思いもよらぬ告白。
私は唖然とし声を漏らした。

瞬の顔が浮かぶ―

「俺・・・さぁっ、なんかオーラ??みたいので
 菊池好きな奴いんなってなんとなく思ってて、
 我慢してたんだけどやっぱ無理で・・・っ・・・。」

軽キャラだと思っていた城島クンが
顔を真っ赤に染めて、今、私に思いを伝えてくれている。

―ドキッッ 胸が高鳴った

瞬に初めて逢ったときみたいに―

「あ・・・えっと御免な。伝えたかっただけ・・・。
 答えとかいらねーから。」

ずっと黙り込んでいる私に気を遣ってくれる
城島クン。

「・・・ううん。ありがとう。」

―ドキッ ・・・私は―…どうしちゃったんだろう―

「返事・・・ちょっと考えさせてくれる??」

私は―・・・
自分の気持ちがわからなくなって
混乱してずるく曖昧の態度を取った。

「・・・!おうッ。つか、誰かと約束してんだよな。
 わりぃ・・・。」
「大丈夫!!それじゃぁ、またねっ。」

なんでだろう―
今まで‘瞬だけ‘って思ってきたのに
なんでこんな簡単に気持ちが揺らぐの―??

携帯をポケットから取り出して見ると
瞬からとカレンからのメール。

―瞬 ・・・近そうで、でも、やっぱり遠い存在の彼方
私のことどう思っているのですか??
―城島クン ・・・一生懸命告白してくれてありがとう
ちょっと返事は待ってて欲しいんだ・・・。

{早くこいやぁ!}
{るぃ;;さっきはごめん!!
 今03人で駅前のマックいるから☆*}

カレンのことは今ので吹っ切れた。
友達だし、ちょっとの欠点は受け入れなきゃね・・・!!

急ぎ足でA駅へと向かう。
自動ドアをぬけると角の席にいるカレンを見つけた。

顔の前で手を合わせて申し訳なさそうな
表情をしている。

早速そこへ行くと・・・瞬がいない。
カレンと翔クンだけ。

「・・・るい〜、ごめん〜。」
「いいよ♪それより瞬は??!!!」

翔クンの腕をカレンが何とも言えない感じで突付いている。
そして気まずそうに翔クンが口にした言葉。

「熱烈ファンに連れて行かれた・・・。」
「はぁ??!!!」

予想外の展開。どういうこと?!

***コメント
るいの気持ちの揺れを読み取ってくれれば
うれしいです♪
それと・・・瞬はどうなってしまうのでしょうか?!!
***以上
「ファン・・・って誰??」

私のむねの中の嫌な予感は
一秒一秒拡大されていく―

「前・・・さっ。俺とカレンと瞬とるいで
 カラオケ行ったときギャルいたやん・・・。」

気まずさからなのか翔クンは
目線が下に向いたまま―

「そんで。さっきな。
 三人でるい待ってるとき偶然きてな。
 瞬にちょっと話がある、言うたねん。」

告白―
直感でわかった―

嫉妬心が膨らんでゆく―
こうして話を呆然と聞いているときも―

「瞬最初な、
 人待ってるから今度にしてや・・・、て
 言うたけど、その子・・・涙流してん。
 さすがにるい待ってるとはいえなぁ・・・
 泣いてたら付いてゆくしかないやんかぁ。」

そういうことなんだ・・・。
嫉妬心は少し和らいだ。
だって、その子だって本気で瞬のこと
好きなんだもんね、好きなのは仕方ないモンね・・・??

「それでそのまま30分経過・・・。」

カレンが呟いた。

―私の中のひとつの疑問―

「あの・・・さ。私、前瞬に告ったんだぁ。
 そのときねっ・・・瞬は何にも言わずに抱きしめてくれたの。」

「はぁ???!!!」
「えっ。」

ずっとずっと私の中に閉じ込め、
誰にも話すことのなかった甘い思い出。

だけでこの二人になら・・・言える。

「そんなん・・・彼カノやんかぁ!!」
「そーだよっっ!」

・・・???

「えっだって瞬から付き合おう、て言われなかったよっ。」

そうだよ、抱きしめられただけ―温かかったな・・・

「あほんだらぁッ!鈍いんにも限度、っちゅーモンが
 あるわぁっ☆」
「それは普通にOKってことっしょぉ!!」

関西弁と標準語の抗議の声が
マック中に響き渡り、人々の視線が
私たちのテーブルにいっせいに集まる。

・・・そなの?・・・よく考えてみれば・・・
そうなのかな・・・すっごいすっごい嬉しい・・・っっ

涙―

「何るい泣いてるのぉ?!」
「だっでェ・・・最近・・・瞬・・・最近・・・
 遠くてェ。遠い存在でぇ・・・。だがら
 寂しくてたまらなくて・・・今日の告白も
 OKじぢゃうどころで。で・・・も、やっばりぃ
 






 瞬の代わりはいないんだね。」

訳のわからない私の言葉をふたりは
黙ってただただ聞いてくれて頷いたりしてくれて
・・・大事な存在だなって改めて思った。

「るいッッ!!!!!!」

そのとき―







瞬が私に微笑んだの―






@@@@@@@@@@
友達と瞬の存在の大き
さを読みとってくれれ
ば嬉しいデス!!!!かの
10
瞬―

「ごめんなぁ!!」

急いで駆けつけてきてくれたのか、
額には汗が少しにじんでいる。

「・・・ん・・・」

瞬と目を合わせたとき
思わずそらしてしまった。

―泣いてたから

「ちゅーか何で泣いてるん!!」

瞬は席に着くと
心配そうに私の顔を覗き込んできた。
優しすぎるよぉ・・・。

―どきぃっ

ヤバい・・・。瞬、かわいいやぁ・・・。

「わしじゃないわぁ!!・・・んな睨むなや、恐ろし」

翔クンが焦りながら否定する。

瞬の睨んだときの瞳―紺色に微かに黒光りが混じって
とっても・・・かっこいい。

私のためにその目を使ってくれることも
嬉しくて嬉しくて・・・―

―胸がいっぱいになるよ・・・

「瞬クン・・・、るいと二人で話してきなよ」
「そのつもり。るい、行けるか?」

カレンが気を遣ってくれた。
瞬も気を遣ってくれる。
翔クンも行って来いや!!と頷いてくれている。

―私ってこんな素敵な人たちに出逢えて
本当に本当に幸せものだね・・・

「うん・・・いくっ」

やっとちゃんと声を発せた。

それから瞬とマックを後にした。

「・・・しゅ・・・何処いくのお?」

泣き声でそう訊くと、

「しゅ・・・の家や☆」

と真っ白な歯を見せて笑った。
それにつられて私も笑い、
二人で瞬の家までの道のりを春のニオイを
わずかに感じ取りながらゆっくり歩いた。

「だいぶあったかくなったやんかぁ!
 そんでなぁ・・・」
「何ぃ??」
「今度俺のチャリンコでサイクリングいこうなぁ♪」

素直に嬉しくて―

「わあい!!二人のりだぁ♪」

―子供みたいな態度を取った。

「るい、前な??」
「・・・え」
「嘘や!!馬鹿やんなぁ・・・」

瞬と笑い合っていると
いつの間にか涙は止まっていて
涙の跡も消えていた―

―瞬の魔法

「ここやで!」

瞬が指差した先には一見何の変哲もない、ちいさな団地。

「ぼろいけど入りぃ」
「おじゃましまぁす・・・ぅっ」

一気に緊張が押し寄せてきた―

「大丈夫やよ。襲わへん☆」
「馬鹿ぁぁ!!」

―やっぱり瞬は人の心が読めるんだね

安心した・・・。

玄関には瞬の靴やそれより少しサイズが小さいけど
男物の靴、女性もののパンプスなどが揃っていた。

「弟・・・いるの?」
「おー。今中房」

どんどん瞬のこと知っていく―
そしてこの内容は
ずっとずっと
頭の中にインプットされていく―

「なが〜い話するで??」

案内された六畳は
スケルトンのガラステーブルに黒いラジカセ、白いクローゼットなど
モノクロで統一されてて瞬のイメージと
ぴったりはまる様な部屋だった。
あんなに人の目を惹きつける
路上ライブやるだけあってCDもずらり。
瞬・・・、勉強家なんだね。
特に『ZERO』っていうアーティストのが
多かった。好きなのかな??

―すっごい、お洒落・・・。

「・・・いいよっ!!」
「まず、お前から、今日有ったこと
 全部話してくらへん??」
「・・・え?」
「カレンちゃんがもしかしたら・・・
 って教えてくれてん」

―そうゆうことか・・・
瞬に話そう。

そして今日告白されたこと・・・
返事は考えさせて、って言った事。

全部話し終えると瞬は静かに口を開いた。

「そっか・・・。るい、俺とそいつ・・・どっちが好き?
 はっきり言うてくれてええよ」

凄く淋しそうな目をしている瞬。

正直に今の想いを―・・・
話さなければ・・・伝わらない―・・・

これは紛れもない真実なのだ―

「確かに私は考えさせてって言った。
 だけど、それは瞬が遠くの存在で、
 遠いからこそいろんなこと考えちゃって・・・。

 つまり・・・私は身近な誰かに逃げようとしてた。
 本当に好きな人とと向き合えずにいたの・・・。

 私は・・・瞬が好き・・・。
 大好きだよ・・・。信じて・・・」

泣きそうになった―

―今まで募らせてきた瞬への想い・・・
溢れちゃいそうだったから・・・。

「最悪やな、俺。不安にさせてごめんな。
 
 俺も端っこから端っこまで全部話すわ・・・。

 その前に・・・
 









 大好き・・・やで」







瞬の鼓動が―
瞬の温もりが―


伝わる。

涙が出る。
11
「あったかい・・・瞬・・・嬉しいよぉ・・・」

涙ながらに瞬の胸の中で発した声。

「俺も・・・同じくらい・・・嬉しいでぇ・・・」

今度は・・・ずっとずっと抱きしめてくれるんだね。

あの甘く・・・そして切なくもある公園での想い出・・・―
―あの頃みたいにどうか、どうかすぐ離さないで??

「話す・・・わ」

瞬は私を優しく優しく抱きしめたままで
真実を語り始めた―


「瞬くん!付き合って♪」

カラオケボックスでのギャル・・・早苗が
俺に告白したんは確か半年位前やったわ。

「・・・えーよ」

そん頃、彼女くらい誰でも良かった、俺。
つまり俺はそん頃、夢中になれるものがなくて
空っぽの外壁だけの日々やった。
せやからどうせ充実してへん毎日なら
彼女とかも勿論誰でもOKとゆーことやな。

―当時の俺を恐ろしく感じるわっ・・・

付き合って一ヶ月過ぎたくらいに
翔に出逢った。俺の恩人やわ。

―夢を見っけられたんはアイツのお陰や

「なぁなぁ!瞬クンて音楽好きやろ!
 CDトカぎょーさん持ってるやろ??」

初対面とは思えないほどの馴れ馴れしさ・・・。

「なんでや」
「そゆ顔なん!!」
「意味不やわ」
「行くなや!今日うちん家来ぇけん??」
「・・・はぁ??男二人・家で何すんねん、あほ」
「俺のギター弾かせてやるわ!最高やろう」
「・・・きっしょ」

そんで俺は半ば強制的に翔ん家に連れてかれた―
12
翔に案内されたんは
所々に雑誌、CDが散らばっていて
いかにも高校男児の部屋。

「CD聴くかぁ??」

 〜 ♪ 〜 

「これ“ZERO”ってグループ歌ってん」
「“ZERO”・・・」

翔が絶賛する“ZERO”の曲・・・―

―・・・むちゃかっこえ。

「やばい・・・相田ぁ。俺はまったわ」

すると翔は「ホンマ?!」と
声を上げんばかりに目を輝かせていた。

「あっ!わしのギター、聴かしてやる」

部屋で隅っこでも莫大な印象を
与えている、かっこえぇ黄色のギター。

それを翔は大事そうに持ち上げる。

―サマになってるやんかぁ・・・、相田。

「いくで」
「・・・ん?ちょい待ちぃや。俺に弾かせてくれる
 言うたやろ」
「いくで」

前言撤回や・・・。

 〜 ♪ 〜 

・・・ロック??―

曲が終わった。
俺は翔の曲をただただ目を瞑って聴いていた。

「おおきに♪・・・なーんてなッ」

―音楽・・・やりたい

「相田!俺、さっきの“ZERO”みたいに
 相田と音楽やりたいわ!」

翔は一瞬驚いて目を丸くしたが
すぐにくしゃっとした笑顔で―

「ええで☆」
「でも俺、今勢いで言うたけど音楽のこと
 全然わからん」
「大丈夫やよ!みーんな初っ端から
 わかるわけないやん」

―翔・・・ホンマお前はえぇ奴や。
おーきに言うても全然足りひん。

それから俺は音楽にどんどんのめり込んでゆく。
平日は放課後、休日は一日中毎日翔の家に通おた。
みごとなる音楽漬けの日々の完成。

―夢中になれるもん・・・見つかったでっ

音楽から大事なもんを学んだ気がし、
早苗をフることにした。

―真剣な早苗の気持ちにいつまでも甘えて
弄ぶのは俺にとっても早苗にとってもよくない・・・

しかしフる行為はそんなに軽いものじゃない。

―早苗を傷つける・苦しめる・・・泣かせてしまう
この罪は一生償えないんかな・・・

―今出来る事は全部正直に話すことや

そんな葛藤を乗り越え早苗に全部正直に語った。

―俺の汚れた真実を・・・

「…いいよ。薄々気付いてたよ。
 今度路上ライブやるんだよね。
 迷惑じゃなけりゃ見に行きたいな・・・っ」

涙を必死に堪えてわざと元気に振舞う
早苗を痛々しく感じ、胸にチクンととげが刺さった。

「・・・来てくれるん??・・・嬉しいわぁ。
 ・・・早苗。傷つけてごめんなあ」
「いままでありがと」

―今まで有難う―

その言葉を最後に早苗は
俺の前から姿を消したんや・・・・・・

―三ヵ月後
今日は路上ライブの日や。

翔と二人で作詞・作曲した唄が
A駅に響き渡る。
響き尽きたところで
ライブは終了。
お客さんの盛大な拍手と何より・・・笑顔が次に繋がるやる気を
分け与えてくれる。有難い。

―歌うのって・・・、ホンマ、・・・気持ちええわ

その日が俺の運命の日―
るいに出逢った。

一目惚れや・・・。
初恋のようにドキドキしよった。

―夜の公園

るいの勇気の塊みたいなもんの告白を
曖昧にした。
理由は・・・、

―早苗のようにるいもいつか傷つけてしもうたら・・・

それと反対に・・・
月日を重ねるに連れてるいが恋しくなる。
この想いが止まらんようになった俺の決意は・・・

―もう逃げん

せやから今日呼んだ。
しかしマックで三人でくっちゃべってっと
早苗が・・・きたんや。

泣いた早苗を放っとけなくて
付いていった。

「瞬。より戻せないぃ・・・??」

涙声。

「無理やんな・・・」

―今は心から愛する人が出来た。
ここで揺らいだらまたふりだしや。

「いやだよお!
 ウチ、瞬と別れてから何回も違う男と
 付き合ったけど・・・やっぱ、瞬しかいないのぉ・・・」

涙悲鳴。

「俺は何もしてへん・・・」

そう言うてその場を立ち去ろうとした俺の
背中に向かって放った早苗の一言。

「ごめんね」

俺こそ・・・や。

「ごめんな」

―早苗。お前は俺なんかよし
ずっとかっこいくて
ずっと優しくて
ずっと大事にしてくれる
奴が絶対現れるで・・・―

―そのこと祈ってるなぁ・・・!!








「・・・飽きた??」
「ううん・・・。」

―瞬・・・。そんなことがあったんだね。

「全部話してくれて嬉しいっ」

本当の気持ち―

―伝えた………


「だってなぁ・・・彼カノやんかぁ・・・」

・・・やっと・・・私の恋が叶ったんだぁ…

―これからの楽しみとは裏腹な不安・・・

「なぁ!飯おごったるで♪」

―でも…瞬と大切な仲間がいてくれるなら…乗り越えてゆける。

これは偽りの欠片もない本心。


「やったぁ!!」

―私たちはまだはじまったばかり・・・。
13
今日から春休み。

そして・・・明日は待ちに待った瞬との
二人っきりデート。

―楽しみだけど、その分緊張するなぁ・・・

今日はデート用の服を買うために
カレンに付き合ってもらった。

「待った??」
「全然☆」

ぽかぽか陽気の暖かい空気に包み込まれた公園。

―やっと春が来た・・・

南風がひと吹き。
それはまるで私の恋を祝福してくれてるようで
胸がいっぱいになった。

二人がやや興奮気味で向かう先は
最近リニューアルした、駅付近のファッションストリート。

「超楽しみっ」
「カレンも今日ざくざく買っちゃうよー」

姫系のお店に入って、まず私の目を引いたのが
可愛いシルエットのワンピ。

「るい〜似合うよ!買え買え♪」
「ホント??」

値段は\8900。私にとっては少しお高め…。

―でもこれを着てデートに行ったら
瞬は何て言ってくれるかな・・・

そんなことを考えていると買わずには
いられなくなって、お買い上げ♪

カレンもギャル系のアクセとか
洋服を買って二人とも満足したところでスタバに入る。

「…いや〜、瞬クンと付き合えてマジで
 よかったねぇ!!」

カレンにはあの日の夜、電話をしていた。
そしたら自分のことのように喜んでくれて
心の中を喜びが埋め尽くした。

「ありがと!!てゆーか、翔クンとどうなったのよ?」
「えー…何かな…学校に好きな子いるっぽいし」

カレンは今の私と正反対に悩んでいて
少しやつれている感じだった。

「はは…。でもそのほうが燃えるし!!
 カレン、超翔の事好きになっちゃったっぽい…」

作り笑顔を浮かべるカレンは
らしくなくて何にもしてあげられない自分が
ひどく無力に思えた。

「…無理しないで、頑張ってね」

今はそれしか言えない―…

―今はただ…

「ん…??るい、あれ瞬クンじゃない?」

カレンが帰り道、指差した方向をたどると…―


―瞬。



瞬が



女の人と二人で歩いてる…


嘘…



『嫉妬』『疑問』

今の私の心の状況はそのふたつの二文字でしか

表せないよ…
14
私は何度も目を疑った。

でもあれは愛しい彼氏の瞬―

「るい…大丈夫?」

カレンは優しく心配の色も少し見せて
問いかけてくれた。

―大丈夫、じゃないよ…

私は唖然として瞬と見知らぬ女の子が
二人歩いて行くのを眺めていた。

―…大丈夫!瞬にもきっと何かの事情があって…

そう思えば思うほど切なくなってしまうのは何故??

「大丈夫…かな」

今にもあふれ出そうなしずくを堪えて顔を手で覆う。

「行かなくていいのっ。瞬クンのところっ」

カレンは眉間にしわを寄せて私の目をまっすぐに見た。

「怖い…よぉ」

正直な気持ち―…

「だからって逃げてちゃ駄目だよっ!」

カレンの強い言葉―
胸に染み渡る…『逃げ』―

「行く…!でも…怖いから…カレンも途中まで来て?」

―決意『向き合う』

「いいよっ!るいは彼女なんだからもっと自信持ちなっ」

カレン…本当に本当にありがとう。
大好きだよっ!!

すぐさま二人は席を立ち
お勘定を終えると駅のほうに歩いていった、
瞬の姿を探した。

―…いた!

大人っぽいアクセショップ。
時々アクセを手にとっては楽しそうに見ている瞬。

胸が痛む…―

つい足がすくむ。

駄目だ…行かなきゃ!!
カレンはもう何も言ってこない。
自分から…

「瞬っ」

そしたら瞬が振り向いて…
驚きを隠せないように

「るい?!」

と呼び返した。

瞬の隣に立っている女の人は目を細めて
気まずそうに私の顔を見ている。

―何…??何よぉ!

「何してん??こんなトコで」

笑顔…大好きな私だけの笑顔じゃないの…―

「とぼけないでよ・・・、それはこっちの台詞だよ」

怒りが段々と込み上げる。

「…あぁ…こっちの女の子は同クラの絵真やで」

そういうこと聞いてないしっ―
てゆーか・・・呼び捨てって…………










「瞬の馬鹿っ」













私は吹っ切れたように走る―
―吹っ切れた訳ないのに…


―まだごちゃごちゃでスッキリしないことだらけなのにっ…

風により髪が顔にかかり心地良いシャンプーの香り
を運んできてくれた―











瞬なんて知らない
15
「待てや!るい!!」

背後から呼び止める声が聞こえる。
振り向きたい…でも、絶対戻らない。

私の正直な感情を意地によって掻き消されていく―

家…家に帰ろう…。
瞬なんてっ…知らない。

コンビニの前でふと時計を見ようと携帯を取り出すと
カレンからの着信が5件とメール2件。

{るい、どこ?!}
{電話かメール、ちょうだいねっ…}

そして瞬から着信7件中、留守電1件。

【もしもし?瞬やけどっ!どこにいるん?
 はぁっ…はぁっ…。ちょっ…話せん?】

息を切らしていた瞬の声…。
もしかして探してくれているの??

とりあえず、カレンに電話しなきゃ。
迷惑掛かってて悪いなぁ…。

はぁ……私って何でいつもこうなんだろ…
瞬の話も聞こうとしないで、感情が先に出てきちゃう…

「カレン?」
「るい!!今何処に居るの?」
「家の近くの…コンビニの前…だよ」
「すぐ行くから!!…カレンが行くまで泣きじゃくるの我慢だぞ」

プツ…ッ… ― ぷーぷーぷー

カレンは優しい言葉を残し電話を切った。

次は…普通なら瞬。
だけど…瞬の言葉無視したりしてて今更…だよね…。
でも瞬がクラスの女子…絵真さんと歩いてたのは本当だし…。

なんで人は手のつけられないやきもちなんて妬くまで
人を好きになっちゃうんだろうなぁ・・・

そんなことを切なく思っていると、
カレンが言葉通り、私の元へ駆けつけてくれた。

「・・・カレン・・・ごめん」
「はぁっ・・・はぁはぁっ大丈夫っ・・・」
「とりあえず私の家来てくれないかな・・・?」
「うんっ!」

元気に微笑むカレンを私の部屋へ通した。
そして、口論スタート。

「瞬さっ…あの絵真さんのことどう思ってるんだろ・・・」
「そんなことより、瞬クンがるいのこと
 どう思ってるか?でしょ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「連絡、どうせくれたんでしょ?だったら
 瞬クンのこと信じなよっ」

カレンのまっすぐな意見に背中を押される。

「実はるいが逃げた後ね…」

とカレンは数十分前のことを語り始めた。

「るい!待てや!!!」

瞬クンはチカラの限り叫んだ。
だけどるいは走り続ける。

そして瞬クンが追いかけようとすると
絵真さんが瞬クンの服の袖を掴んだ。

無言で口を強く結んだまま
瞬クンの顔を見る。―不安げに

あたし…カレンはただただその儚い光景を眺めていた。
何も言えなかった、と言うのが正しい。

瞬クンは強く

「ごめんなぁ!!」

と頭を下げるとるいの走ってった方向へ
全力疾走。

アクセショップの入り口で見守っていた
あたしの姿にも気付かないほど。

絵真さんは下を向いて泣きそうな表情をしていて、
痛々しく、見ていられなかったため、あたしもるいを
探しに入った。


「ま、こんな感じ。瞬クン、多分まだ探してるよ?
 連絡しなくていいの」

カレンは私のベットに横になった。
そして天井の方に手を伸ばして…

「るい!!今しかないんだよ。素直になれる時は!!」

後押しするように付け足した。

―本当だよね…。

「瞬と会ってくるね!」

素直にならなきゃ…恋なんてものは続かない…―

「あれ?連絡しないの」
「私も走り回って探す!」

そうしたかった。瞬がやってくれていることを私もやって、
息が上がってくるしんどさとか、早く会えないもどかしさを
分け合いたかったの…―

―それがカップルだもん…ね。

家を急ぎ足で出るとまず…あの想い出の公園に向かった。
なんか其処に瞬がいそうな気がしたから。

「はあはあ」―公園にやっと着いた。

きこきこ―

ブランコの音。
見覚えのある愛しい背中がその音をつくってるようだ。

「瞬っ!!」

背中は振り向くと私の元にゆっくり歩いてきて
ぎゅっと抱きしめた。

―涙、でそう。嬉しい涙。
 やっぱり瞬は…あったかいやぁ・・・

「此処にるい来そうな気ぃしてん」
「私もだよっ」

ゆっくりゆっくり瞬は私の顔に接近してきた。
そして…






優しいキスをしてくれた。
16
―瞬との優しいファーストキス
一生ずっと大事に大事にしていくよ………―
瞬、ありがとう。

「るい…ちょ…話そうや」
「うん…」

二人は大きな滑り台の平らの部分に腰を掛けた。

今はうす暗い新春の夕方―
―子供の姿は、見当たらなかった。

「瞬…ごめんね。私…瞬の話、聞こうともしないで…
 誤解…しちゃってた…」
「えーよ…。元はといえば、俺が怪しまれること
 したんやもん。せやから、謝んなやぁ…。
 こっちこそ…ごめんやで……」

しょんぼりと謝ってくる瞬…素直な気持ちを伝えなきゃ―

「私…ね!!…やきもちやいちゃって!!
 …瞬の事好きすぎて…わけわかんなく…なっ…ちゃって」

とうとう涙が私の頬をつたって地面へと染み込んでゆく―

「私本当情けない…よ…」

冷たい涙―
しかしその涙を恋しい体温が包み込む―
暖かい涙―
―瞬が私の涙を拭ってくれた

「…るいはそれでええわ。変わんなや」
「・・・!」

―私、このままでもいいんだ
瞬が言ってくれている―

その言葉には本当に本当に私のココロが救われた―
―たった一言のコトバなのに確かに私のココロを支えた

「瞬…」

そんな事言ってくれちゃうと…また泣くよ??
大好き…っていうより、愛してるよ…。

「私…瞬に助けられてばっか…。…飽きるでしょ」
「んなこと絶対あらへん!るい何なん??
 なんで…自信もっともたれへんの??!!
 るいは居るだけで…此処で精一杯生きてくれるだけで…ええわ」

瞬は少しむっとしたように早口で捲くし立てた。

―そんな…居るだけでいいなんて言われたの…
初めてだよ…感謝してもしきれない位だよ―

でも『生きてくれるだけ』って言ったとき、
瞬、凄い悲しそうだったなぁ…。
今度翔君に聞いてみよう…。何か知ってるかも。
やっぱり私だって瞬を支えられる女の人になりたいし…―

「さて…今度は俺が話すで。
 絵真との事…なぁ??」
「うん」

覚悟は出来てるよ―…

「今日の放課後な・・・?
 絵真に告られて、もちろん彼女いるって言うた。
 けどな…『今日だけ付き合って!!』て。
 場所は最近新しく出来たってゆうのやから…
 ほら…るい、再来週誕生日やん??
 …だからいいプレゼントがあればって…なぁ、
 軽い気持ちで行ってしまったわ。
 るいにも…絵真にもホンマ悪かったって思うてるよ…。
 ごめんなぁ!!」

瞬が顔の前で手を合わせている。

―そんなん…いいに決まってんじゃん…。
だって…絵真さんも今日だけはって必死だったらろうし、
私の誕生日…覚えててくれたし。
瞬はこんなにも反省している。

「いいよ…。でも…」
「でも??」
「瞬モテすぎぃっ!!」

すると瞬はぽかんとした表情になった。

可愛い…

「お前だけやし!」
「嘘つき!!」
「嘘つかれへん!!」

―私は素直になれなくてひねくれた態度を
とったけど・・・本当は凄い嬉しかったんだよ…
安心感で胸がふわっと軽くなった―

「あぁーーー!!!カレン家に居るんだったんだ!!!」
「ほんまぁ??」
「ほんま!!…瞬…時間ある??」
「ばりばりある♪」

ピースサインを私の頬にくっつけてくる笑顔の瞬が
最高に愛しい―…

「じゃぁ…家きて!」
「おう!走るでぇ」

瞬の金メッシュの入った髪が夕焼けに照らされて
眩しい―…

二人で手をつないで息を切らしながらも
家まで走りきった。

これもまたよき想い出―

「カレ〜ン!!ごめんっっ」

急ぎ気味に部屋のドアを開くとカレンはベットで
寝ていた。

「はは!!カレン可愛いやん♪」
「…瞬!」
「やきもち女ぁ☆」
「瞬の馬鹿!」

こんなからかってくる瞬・・・
初めて知る瞬…―嬉しいっっ

「…ん?」
「カレン!起きたぁ」
「ふあーあ。どっかの馬鹿ップルのせいでね」

カレンは寝起き早々私達に皮肉をぶつけると
意味深な笑みを浮かべた。

「ほほーう。仲直ったんだ☆」
「おかげ様でっ」

カレンは自分の髪をてぐしで軽くとかすと
私の頭をくしゃっと撫でた。

「んじゃっ、カレン邪魔だから帰りますう〜」

ドアに手を伸ばす。

「待ってくらへん!!?」

瞬?

その手が止まる。

「まぁ…座ってや」
「此処私ん家!!」

カレンは不審そうにソファに座った。

「…翔のこと、どう思ってるん」
「翔…?…なんでよ」
「…あいつな…カレン学校に好きな奴いるぽいわーって
 超へこんでたん」

―え?だってカレンも同じこと…

「あはは…それは翔の方だよ」

カレンの目に輝きは無く、虚ろな瞳だった。

「あいつはっ…カレンにずっとずっと…一途なんやぞ!」
「え…?」

私以上にカレンは驚いていた。

翔クンもカレンに想いを寄せていたんだね―

―きっとカレンは、翔クンのことで
いろんな悲しみ、苦しみ、…それらの葛藤を乗り越えてきた
―でも翔クンもそれと同じように…

凄く胸が熱くなるのを感じた。

「あいつは…きっとカレンに伝えたいことが
 山ほどある。けどな、好きな奴いると思ってるやん?
 カレンを戸惑わせてしまうから…って想いを
 打ち明けられないんや…。
 全部全部…お前のためなんや…あいつは」
「嘘…」

カレンはぽろぽろ泣いていた。
私はその震える背中を抱きしめる。

「本当に本当によかったねっ…っ」

いつもとは立場逆転。

カレンは翔クンを諦めなかったから
今の喜びがある―

やっぱり…諦めないでずっと想い続けるってことは
その後進展がまるでなくても、大切なことなんだ。
一生の宝になるんだね。

「明日、翔に会ってくる・・・!」

カレンの決意。強く、決して壊れることのない―…

「翔…今も悩んでると思うわ…」
「頑張れ!」

頑張れ!―カレンが翔クンが正直に…想いを…伝えられますように…

「瞬クン、るい、マジありがと!!!」

そうしてカレンは帰っていった。
あたたかな気持ちをお土産に・・・。

「るい。明日デートなぁ!」
「うん、バイバイッッ☆」

瞬も帰っていった。



瞬との突然のファーストキス―
仲直りの愛の力―
カレンと翔クンのもうすぐやってくる幸せ―

今日はとってもいい日でした…―
17
翌日

「行ってきますっっ!」

今日は瞬との久しぶりのデート。
昨日カレンと買ったワンピをパンプスと
合わせた甘々コーデで気分も上昇中♪

「るい!」

ドアに手を掛けたところで
お母さんに呼び止められる。

「何ィ??」
「瞬クンとのデート??」
「そうだよっ☆」

お母さんにはもう瞬のことは話してある。
そのことを聞きつけたお兄ちゃんが
リビングからやってきて大声で一言。

「るいッ!!彼氏できたのかよお〜キャハハ☆」

高らかな、いかにもギャル男っぽい笑いを
その言葉に含んでいた。

うざ……

「お兄ちゃん!!お父さんにきこえるでしょ?!」
「は〜?!まだ言ってねぇのかよおー」
「…るい、今度ウチに連れてきなさいよ。
 そろそろお父さんにも言わなきゃ」
「あっぢゃ俺もそん時美咲連れてくっから!
 日にち決まったら教えろよお」

こんなギャル男の彼女…
興味ある…。やっぱ彼女も…ギャルかな?

瞬なら全然OKしてくれそうだし…
今日話してみよう!!

「いーよっ」

そう残して家を出た。

待ち合わせは駅。
瞬はすでにいた。当たり前だよね…。
待ち合わせ10分OVERだもん…;;

「ごめんネッ」
「あっるい!!遅いわぁ♪」

そう無邪気に笑うと私の手をとった。

えへへ…あったかい…

―瞬と手を繋いでるだけで…
こんなに幸せな気分になるのは…
こうしてる間、心も繋がっているからかな―

「今日はゆっくり散歩デートやけど、ええ?」
「うん♪もちろん!」

春風が心地よくて体をそのまま風に
預けてしまいたいほどだった。

春休み―
瞬と―
のんびり―
散歩―

―最高のシチュエーション

「あのさぁ!瞬て最近ライブやってなくない?」
「今な…翔と密かに曲作りまくってん!」
「マジ?!それって…作詞・作曲ってこと?」
「せや☆出来たらまず、るいとカレンに聴かせよなって
 翔と言ってるんやでっ♪」
「嬉しい…」

素直に嬉しいよ―…
―瞬は…これからも絶対誰にも譲りたくない…

つい好きすぎて、独占したい気持ちが
日に日に増えてゆく―

ゲーセンに行って、プリクラを撮った。

瞬はやっぱりかっこよくて…
改めてドキドキした―

それからファミレスでお昼を食べた。

「瞬・・・今度、デートの時、家族に
 瞬のこと紹介したいんだけどぉ・・・
 ウチ来てもらえる?」
「あぁ!!俺も同じこと考えてたんやけど♪
 じゃぁ・・・今度のデートは
 お互いの家行き来な?俺今親父いないけど」
「うん!お父さん居ないんだ?」
「ちょっと…なぁ。今えっと単身赴任みたいなや」

ちょっと気になったけど
気まずそうに話す瞬にいっぱい質問して
嫌われるのが嫌だったから口をつぐんで話題を変えた。

「あの…私のお兄ちゃん超ギャル男で…。
 しかもその日、自分の彼女連れてくるって言ってたんだよねー…」
「ほんまぁ?!るいからは想像つかんわぁ!!
 まぁ…学校にギャル男の連れ何人もいるから
 見慣れてるで(笑)俺もこんな髪の色やし。
 楽しみやなぁ」
「私もぉ♪」

そのときだった。瞬の携帯がなった。
サブディスプレイには[奏]と…。

「…弟や」

とつぶやくと、周りを気遣って外に出て
話していた。

そういう気遣いが出来るところもまた惚れ直しちゃうよ…

電話が終わり戻ってきた瞬は深刻そうな顔つきで
謝ってきた。

「ごめんなぁ!今日もう…帰んなきゃいけなくなったわ…」
「どうしたの・・・?」
「お袋が倒れたらしいんや…!ホンマごめんなぁ!
 急ぐわ!」
「嘘ッ??早く行っていいよ!今日はありがとッ…」
「夜、連絡するわ」

瞬は大急ぎでファミレスを飛び出ていった。

大丈夫かな…??瞬…凄い必死で…
なんかお父さんのことと関係があるのかも…

考えてもしょうがないことを独り悩みながらとぼとぼと家に帰った。
いつもなら隣を瞬が陣とっているのにな…
今日はすかすか…

―瞬の存在の大きさって…

夜―

瞬からの連絡は…






なかった。
18
次の日の朝―

カレンから電話が掛かってきた。
昨日、瞬の連絡をベットの中で
ずっと待っていたから全然眠れなかった。
そのお陰でケータイの着信音が頭にがんがん響いた。

―瞬にだって事情があるよね…?

「…もしもし」
『るい??元気ないけど大丈夫??』

カレンは私のこと一番わかってくれるよね…

「あっ大丈夫!ありがと〜」
『あの…翔に昨日気持ち話したんだ』

そういえば!どうなったんだろ―♪

「そしたら・・・?」
『見事カップル成立やで!』

いきなり翔クンに入れ替わったから
びっくりした。

―でも本当に本当によかったぁ…

「おめでとーっっ!!」

ココロから…

『おおきにぃ!つか瞬とるいのお陰やで』

瞬で思い出した…

「瞬のお父さんって単身赴任なんだよね・・・?」

瞬がお父さんのことを話したとき
取って付けたように感じた言葉。

『…家庭のことは口止めされてんねん』
「だって!瞬さあ…一人で抱え込んでる気が
 するんだもんっ…!私はいっぱい支えてもらってるのに。
 瞬のこと全部知って…受け入れたいっ」

今まで溜め込んできた想い―
解き放つ―

『・・・やよな。話すわ』
「ありがとお…」
『電話じゃなんやろ?
 んじゃ…今すぐモスバな!』
「うん…。」

電話を切り、すぐ私服に着替えて家を飛び出す。

―瞬…好きだから…愛してるからこそ…

翔クンとカレンはもうすでに席を確保していた。
それにしても本当お似合いだなぁ♪

「改めてオメデト☆お似合いだねっ」
「るい…アリガト。恥ずい…」

カレンは頬を赤らめた。
可愛いなあ…。

「話すでッ」
「お願いします・・・」

覚悟…しなきゃ…

「あんなぁ…瞬が六歳の頃、親父さん…
 逝きよった。多額の借金を残して自殺。
 ドラマでよくあるような話ねんけど
 ホンマやで…。」

―嘘・・・

呆然として…声が出せない…

翔クンは慎重な顔つきで続けた。

「んでな、残されたオカンと瞬と弟で
 今までずっと頑張ってきたん。
 オカンは子供二人と借金返済のため
 朝から夜まで必死んなって働いて
 瞬と弟は家事全般をこなしたん…。
 それで今があるんやでな・・・」

どうしよう 涙が止まらないやっ・・・

―瞬・・・なんでいっぱいそんなに辛い過去背負い込んでんのに
話してくれないの…? 強がる必要なんて何処にもない―…

カレンも瞳を微かに潤わせていた。

「瞬・・・昨日デート中に弟さんから
 お母さん倒れたって連絡きて・・・
 すぐ帰って行った・・・よ
 それも・・・全部・・・もう何も失いたくないから
 だったんだよね・・・」
「せやな」
「翔クン・・・病院知ってるんでしょ・・・?
 教えてょぉ…お願いッ。瞬と凄い話したくてぇ」

私が助けを求めるように声を振り絞ると
翔クンはナプキンにペンで
『中央病院』と書いて渡してくれた。

何かを決意するように下唇を噛み締めながら。

私はそれを受け取ると走った。






走った







走った









愛すべき
人のため
に走った






















走った
19
「はぁ…はぁ…」

―中央病院

やっとついたっ・・・

受付の人に部屋の番号を聞いた。

『605』

エレベーターを待つのがもどかしくなり
階段を一気に駆け上がった。

―瞬のお母さん…苦労したんだろうな…
だから倒れちゃったんだ…

―病気じゃないことを…祈ります

―お母さんが体調を崩したことによって
瞬は真面目だからいっぱい責任感じちゃうんだろうなぁ…

やっと六階まで辿りついた。

―瞬のお母さんに会うの…初めてだぁ…

少しの緊張も抱えて病室のドアを開く。

部屋の一番奥のベットにカーテンが
かかっているけどちょっとの隙間から
瞬の洋服の裾が見えた。

「失礼します…」

小さく言うと瞬が気付いて
目を丸くした。
そしてこちらに向かってきた。

「ちょっ…お袋…ごめん」

お母さんに声を掛けるのを忘れずに…。

「るい…ちょっと来いや」

瞬は怒っているのか一度も目を合わせてはくれない。
それから病院を出てすぐそばにあるベンチに腰掛けた。

「翔から聞いたんか?」

低い声。少しかすれている。

「うん…だっておかしいでしょ?」
「何がや」
「私ばっか瞬に支えてもらってて…」
「はあ…。支えるって何やねん。
 お前に俺らの苦労がわかるわけないやろ!!?」

瞬はこっちを睨みながら怒鳴った。
凄い剣幕…。

―此処でひるんだら駄目…
強い女の人になるんでしょ…?

前の弱い私とは違うよ―

「確かに…本当に大変だった瞬のお母さん、
 弟さん、瞬の大変さは私にはすべてわかるわけないって
 …わかってるよ。だけど・・・さ。
 瞬は独りで抱え込んでて、責任も自分独りで背負っちゃって
 …私は瞬を支えたいよ…。好きだから…
 愛してるよ…瞬…」

最後は泣きながら言った。
両手で顔を覆って声を出さずに泣いた。

瞬はやや下をむいて悔しそうな表情を
浮かべた。眉間にしわを寄せて。

「それだけ…言いたかったから…」

私が今瞬に伝えるべきことは言った。
ベンチから腰を上げ、家へと向かおうと
したら…

「るい!」

腕を掴まれた。

「まてや…」
「…瞬」
「ごめんな」

そして抱きしめられた。

「…いいよ」
「俺…るい泣かせて最悪やよな。
 本当は支えたいって言われて…
 嬉しかったんや…。でもそれって甘えやろ?」
「甘えなんかじゃないよ…。瞬は此処まで
 頑張ってきたじゃん。今も頑張ってるよ・・・」

私は思うことをそのまま口にすると
瞬は口角を上げた。

「おおきに…俺も愛してるわ・・・」

『愛してる』
その言葉は私たちを永遠へと運んでくれる気がした。

「私も・・・」




しばらく抱き合っていると
瞬が私を優しく離した。

「…お袋と会ってくれへん?」
「・・・え?」
「前、紹介しよ、言うてたやん。
 この後るいん家行ってええか?」
「うん!!いいけど…」
「俺のお袋なら大丈夫や。過労らしいから」

私の心がすっと軽くなった。

先ほどの病室へ足を運ぶ。

―数十分前とは裏腹な気持ちで…

「お袋。こいつがるいやで。話してた、俺の彼女や」

瞬のお母さんは瞬によく似ていて
とても美人な人だった。

「初めましてっ…。よろしくお願いします」

二人は真剣な面持ちで言葉を発した。
私には不安な気持ちがあったけど
大丈夫になっていた。

―瞬が後ろで手を握っていてくれたから…

「あらぁ…るいちゃん…やでな?
 こんな姿で初対面じゃ失礼やわなぁ・・・。
 瞬を…よろしくなぁ」
「はいっ」
「じゃぁ…また元気なときに来てくれやぁ!」

お母さんはそれだけ言うとにっこりと頷いた。

―優しそうな人だなぁ…
瞬にそっくり・・・

「じゃっるいの家行くでぇ!」

瞬は自転車で来ていて、後ろに乗せてもらった。

「前やぁサイクリングしよ、言うてたやんけ」
「うん・・・!」

瞬の家に向かう途中…私が泣きじゃくっていたあの日

「叶ったな!」

嬉しそうに笑う瞬が眩しくて仕方ない。

そして私の家へ到着した。

「おじゃましまぁす・・・」

瞬は少々緊張気味・・・可愛い♪

「彼氏連れてきたよっ」

リビングへと足を運ぶと全員集合・・・!

何にも知らないお父さんは呆然と
お母さんは嬉しそうに「あらぁ♪」と
そして薫ニィは…

「てめっ…るい!連れて来る日合わせよって
 言ったじゃねーかっ!・・・でも瞬かっこいーぢゃん」
「馴れ馴れしいよっ!!」
「はは!!ええよ。俺嬉しいですわ」

それから瞬はお父さんとお母さんに深くお辞儀をすると

「突然お伺いして申し訳ございません。
 初めまして。如月瞬と申します。
 よろしくお願いします」

瞬・・・凄いっ…格好いい・・・

「・・・ほう。そうなのか。いきなり驚いたが・・・
 ・・・瞬クンだよな?君にならるいを任せられそうだな・・・」

お父さんはまっすぐに瞬を見た。
その目は喜んでいる様。

「話は聞いていたけど・・・瞬クン、るいをどうぞよろしく♪」

お母さんは満面の笑みで瞬に軽く頭を下げた。

初対面ということで、お昼も近かったので
瞬は帰ると言った。

玄関での家族揃っての見送り。

「・・・照れるわあ」

靴を履きながら瞬がつぶやく。

「今日はお邪魔しました!!またちゃんと
 お会いできればと思っています。
 それでは・・・」

ドアが閉まる。

その前に瞬が私に視線を合わせて
にっこり笑ってくれた・・・。





―瞬と分かり合えた一日・・・
ありがとう、そして瞬のこと・・・
ずっとずっと見守っていくよ・・・
永遠に・・・
惜しい春休みももうすぐ終わりを告げる。
明日から、新学期。

―高1の一年間はもの凄い早くてあっと言う間だったなぁ・・・

なんて切ない気持ちに浸っていると
一件のメールが入った。

―あ!!瞬だぁ…♪

{るい〜春休み最後の思い出つくろや!
 今日の夜ヒマか??}

―春休み最後の思い出かぁ!!
わくわくする・・・

もちろん返事は・・・

{OK☆}
{んじゃぁ!!八時に迎えいったるわ♪
 家も門限とか…大丈夫け?}
{大丈夫だよ!家族、瞬の印象良かった
 って褒めてたもん♪}
{まじか(´A`#)!!照れんなあ!}
{はは!!じゃぁ@}

―お洒落してかなきゃ!
後…メークも!!

八時

ピーンポーン

―瞬だあ!
めっちゃどきどき…

「はあい!!!」

ガチャ

ドアの前に立ってたのは
薄暗い中、ぼんやりと外灯が照らすせいか
いつもより大人びて見える瞬…。

「よ」
「ッよ」

―超かっこいー…
私が付き合ってていいのかな!!?

「行くで♪」

そんな不安も瞬の二カッとした笑顔を前にすると
掻き消されてしまう―
安堵感でいっぱいになる…快感…

瞬は自転車で来ていた。
私は後ろに座った。

―自転車に瞬と二人乗り・・・
ゆっくり時が流れていく・・・

しあわせのひととき

「るい!!そろそろ目ェ瞑っとけや」
「え・・・?うん、分かった!!」
「『ええよ』言うまで開けちゃ駄目やで!!」

言われた通りに目をゆっくり瞑った。

心地よい風が吹いている・・・

「着いた」

瞬はそっと呟くと私の体を抱っこして
自転車から降ろした。

―恥ずかしいけど…嬉しい

それから瞬が目の前が見えない私の手を
ぎゅっと握ると優しく誘導していった。

「ええよ」
「開けるよォ・・・ッうあ!!」

―其処らに広がっていたのは
綺麗で…コレ以上無い位の夜景…

「瞬・・・」

―感動で…いっぱい、いっぱい

「瞬と逢えて…最高に幸せですっ」
「俺も…愛してる」
「愛してる」

―これは決してふざけて使うような
軽い言葉じゃない…

『愛してる』…瞬・・・







瞬に逢って

思い切り恋して泣いたり嫉妬したり笑ったり・・・






本当の“愛”を知れたり・・・・・・・・・・・・・・・・・









これからも・・・私と瞬の恋のハーモニーは

奏で続ける・・・これは決して終わらない・・・

世界にひとつしかない宝物・・・

そう・・・

恋のハーモニー永遠に・・・・・・・・・・・・・・・・・・