庭 球 ~ t e n n i s ~



by
かの



o n e
 パンッ  パンッ  

明星中学のテニスコートには今日も爽快な音が響いている

「アオイ、行くよー」

今は親友の麻衣と乱打中。
ラリーが続くと最高に楽しい。
これだから軟式テニスはやめられない。

「集合ッ!!」

内田コーチの図太い声が皆を呼び寄せる。

「今日の練習は此処まで。
 自手練したい奴は五時まで!以上」
「「「ありがとうございましたっっ」」」

私の名前は本庄アオイ。
庭球にゾッコンな新中二生。

「アオイ、練習残る?」
「勿論!!美知は?」

背が高くて大人っぽい美知は
首を傾げて考えるように「うーん」と唸った。

「今日はやめとく…。足痛いし」
「わかった。お大事にねっ!!帰ったら冷やすんだよ」

ニッと笑って美知がコートから出るのを
見送っていたら先程乱打をした麻衣と
あかりが駆けつけきた。

「アオイッ今日うちら超疲れたからぁ〜
 直帰するぅ〜」

余程疲れているのか二人とも珍しく
冴えない顔つきだった。

麻衣は赤渕眼鏡をかけていて可愛く、
あかりはショートで元気な感じ。

私と美知と麻衣とあかりはクラスの中の一つの
仲良しグループ。良く四人で行動することが多い。

「わかったぁ。お疲れ!」

周りを見渡すと二年全員帰っていた。
三年生の姿も見当たらない。

(えぇ?!コートにひとり?!!)

戸惑っていると…

「アオイ!乱打しよっか」

キャプテン・前野凛先輩が声を掛けてくれた。

(よかったぁ!凛先輩いたんだぁ…って乱打?!)

「いーんですかッ?!!私なんかで?!!」

凛先輩は…ペアの玲先輩と県で準優勝した事の有る
実力の持ち主。私の…憧れの先輩。

「もっと自信持てよッ(笑)てか今アオイしか
 いないし!!」

(あ…;;)

「ですよね…」
「冗談冗談!!!アオイは上手くなるよ!間違いなく。
 じゃぁ…私あっち側行ってるから」

(ホント・・・?)

凛先輩に光栄な言葉をもらえて凄く嬉しかった。
チカラがどんどん湧き出てくる感じがする。

「行くよぉー」

 ポーン 

ロブだ…。・・・高いボール

 ポーン 

私もロブで返した。

 バシッ 

次はシュートボール。・・・速くて低いボール

 バシッ 

同じように返す。

暫くシュートボールのラリーが続いて
凛先輩にボールがいったとき…

 ッバシィッッ 

「うわっ・」

ラケットがボールに触れたとき・・・
弾かれそうになった。何とか耐えたけど
ボールに変な回転がかかってコートの外へ
飛んでいってしまった。

(これが・・・県で通用する訳だ・・・)

凛先輩はパワー派・テクニック派だったら
パワーを重視する方。

(凄い…)

もっと強くなりたい。
凛先輩とガチンコで勝負出来るくらいの―
だけど、本当はそれより上を目指したい。

『努力すれば、した分の結果が出る』

その言葉を信じて、私は家に帰ってからも
練習に取り組むことにした。

一番になってやる―
t w o
「おはよー」
「ふぁ…はよぉ」

麻衣が眠そうにあくびをした。

(今日からまた月曜日!!)

今から朝練に行くところ。

「おはよッ!」
「…はよーざいます」

最強のペア。
凛先輩と玲先輩。

(格好いいなぁ…)

ついつい見とれてしまう。

「「おはようございまぁす!!!」」

日常茶飯事をこなす麻衣と私。

ボールを打っていると
内田コーチが後ろから声を掛けてきた。

「軸足、できてない。・・・でもお前・・・
 前よりフォームが綺麗になったな・・・」

(やった!やっぱり素振りって効果あるんだね♪)

「こんなら・・・春の大会にでられるかもだなッ…。
 まッ頑張れ本庄っ」

単純に嬉しくて。
コーチの褒め言葉は、私のエネルギー源になる。

(もっと頑張るッ!!そして…)

春大に出るんだ。努力すれば…きっと。

キーンコーンカーンコーン…
朝練終了の合図。

ドキッ

ボールなどの道具を部室に運んでいると
同じ部室の男テニ2年の太一、連と鉢合わせになった。

「お!アオイ!愛しの太一だよぉ〜♪」
「うるさい…ッ///」

あかりが調子よく口にした。

(もぉー恥ずッ////)

美知と麻衣とあかりには話してある。
・・・太一が好き、だってコト。

太一は格好良い。素振りとか一本打ちとか
余り気が進まない練習でも一生懸命やる。
練習を選ばない。誰よりも頑張ってる。
後…普段はチャラけてて馬鹿なことばっかやってるけど
試合のとき、表情が一変する。

私は太一のそんなところに惹かれた。
太一を見ているうちに少しずつ惹かれていった。

「あれぇ??アオイ、図星なんだぁ♪じゃマジで
 俺のことぉっ・・・」
「馬鹿っっ!!私がアンタみたいなの好きになる訳ないじゃん!!」

(あ゛ー!言ってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁ↓)

「…うっわ〜!怖えぇ〜…。キャハハ!!」

お茶らけてふざけながら太一は教室に戻っていった。

「あかりぃ!!…もぅやめてよ。何が『愛しの・・・』
 はぁぁ・・・〜」
「ごめんごめん!つい言っちゃうんだょ…」

あかりは反省の色が少し見えたから
まぁ・・・いいよね。

「はぁッ」

なんで素直になれないの?!!
もう・・・ッ

そんな自己嫌悪に駆られたまま
一週間が過ぎた。

今日は大会の二週間前。
メンバーが発表される。

どきどきどき…

(落ち着けッ私・・・)

家に帰ってから最低一時間は素振りとか壁打ちを
してきた。自分のプレーも確実に進化してるのも
わずかに感じ、自信が少しついた。

出られるのは・・・3ペア。

(大丈夫・・・だよ)

でも嫌な予感がしていた。

「んじゃぁ・・・発表する。
 [玲・凛ペア]」
「「はい!」」

力強い返事。

「次に[みゆ・愛ペア]」
「「はい」」

落ち着いた返事。
みゆ先輩と愛先輩は県大で互角に
戦えるプレーを繰り広げることが出来る力の持ち主。

「次に・・・」

きたッ

「[美知・裕子ペア]」

「「はい!!」」

えっ―――

「控えは[麻衣・晴菜ペア]で行くぞー」

「「はい・・・!」」

―なんでよ??私あんな頑張ったのに!!
美知とか麻衣よりも上かと思ってた・・・。

何で!!

その後のコーチの話なんて
呑気に聞いて居られる場合ではなかった。

―私って頑張ってもムダ?・・・
t h r e e
「それじゃぁメンバーに入れなかった者も
 気を落とさず練習に励むこと!…以上」
「「「ありがとうございましたぁ!!」」」

―私は入れなかった者・・・?

「はは・・・」

―『気を落とさず』…笑え

「美知頑張ってね!麻衣は何かあったら出るんだからぁ〜
 覚悟しときなよぉー!・・・あはは・・・」

―笑えッ・・・

「あかりィ!うちらもっと頑張んなきゃね☆」

―笑わなきゃ・・・

美知たちの言葉なんて聞き取れなかった。
それほど笑顔を作るのに必死だった。

(…ッ・・・はぁっ・・・)

―だってこのくらいで泣いたら・・・
弱虫だもん・・・ねェッ…

「麻衣。教室に忘れ物しちゃったぁ・・・。
 さき帰ってて」
「マジッ?!待ってるよー」
「ホントさき帰ってて」

麻衣は私の気持ちに気付いたのか「わかったぁ」と
頷くと鞄を背負って帰っていった。

私はすぐさま校舎の裏に回りこんだ。
誰も居ない場所。
ここで泣いた。声を我慢しながら。

「・・・アオイ?」

(ぅっ・・・誰ェ??!・・・こんな姿・・・)

恐る恐る振り向くと・・・
『愛しの』太一が突っ立っていた。
口をあんぐりと開けて驚きを隠せない様子。

「・・・太一」
「どした?」

太一は地面に腰をおろし、壁にもたれ掛かっている私の
横にゆっくりしゃがみこんだ。

「どした?」の声が優しくて・・・
甘えた。

「はは・・・。実はね・・・」

と今までのことをすべて話した。
太一はただ黙って聞いてくれていた。

「そうか・・・」
「私・・・さっき凄い作り笑いしたけど・・・
 本当は美知とか麻衣に嫌味・・・ぶつけたかった」

―これが本音。
私は頑張った。なのに・・・。という想いが
今も頭の中を駆け巡る。

「・・・頑張ったのは・・・アオイだけじゃねぇってことだよ。
 きついこと言うな・・・さっきからアオイは
 自分は本当に努力した、ばっかり言ってっけど・・・」

(・・・ぇ・・・どゅ意味?)

「選ばれた奴も相当頑張ったんじゃねぇの。
 じゃなかったら入らねぇだろ、メンバー」

太一は眉間に皺を寄せながら告げるかのように
静かに口にした。

「だからッお前はもっと頑張れ!抜かせ!
 応援してっからよ!・・・誓えよぉ??」

―そうだよ、そうだよね

「頑張る!誓う!」

太一はニッと歯を見せると
立ち上がった。

「じゃぁ帰るか!!」

―太一、ありがと

「太一!ありがと!元気出た!それと・・・」

(恥ずかしい///ょ・・・)

「それと?」

ドキドキドキ 鼓動が正常に動き出した

「前嫌いって言ったけど嘘だからッ」

あまりの恥ずかしさに・・・走って逃げた。
告白までは行かないけど・・・太一が物凄く格好よく見えたから
緊張はピーク。

校舎の裏に一人取り残された太一はホッと
ため息をつくと両手で顔全体を覆った。

涙を流す日が来ても・・・

「・・・ッたく。キライって言われたとき
 超気にしてたのに・・・。いま嘘って言うなんて
 ・・・反則じゃねーかっ」

また走り出せば、光が待ってる・・・

そう胸に言い聞かせた。
Z E R O
春の大会をきっかけに悔しい想いをしたあの日から
三年が経った―

今私は高2。

あれから、太一の言葉を胸にしまって
ひたむきに努力を積んできた。

そんな・・・過去を振り返りながら
たったひとつの金色のトロフィーを眺めてみる。

私の夢。
金色の夢。

“叶った”

全国大会で昨日優勝した。

それまで・・・
いっぱい汗を流して
いっぱい涙を流して

これでもかっ・・・てぐらい。

答なんてないって思った。
だって頑張っても結果が全然出なくて。

けど・・・此処に有った。
今胸の中にある感情はまさしく答。

この達成感は計り知れない。
なんとも言えない。
このこみ上げて来る・・・波。

またウロコが毀れた。
今日で何回泣いたかな・・・

ねぇ私。
きっとこの涙は悲しみとか喜びじゃない。
ただ・・・想いが尽きないだけ・・・。

“叶った”
世間はそう言う。

だけど・・・これはまだ私のスタート地点。
限界なんて、ない。
叶っては、また願い、叶えたい。

そう心から信じてる・・・
ずっとずっと・・・

これはスポーツだけじゃない。

恋愛も、そう。

ねぇ太一。

乗り越えてゆける。何もかも・・・
そんな気がした。