ここに、いる



by

かの



1話
僕は誰なの?

誰かに必要とされてる?

生きてる意味―あるの…?


雫が頬をつたう


こういう弱い自分が嫌なんだ


―いやなんだよ

その瞬間 なにか が吹っ切れて

僕は思い切り自分の腕をつねる

容赦なく痛みつけないと

不安で不安で


仕方なくて―…



カッターナイフを引き出しから

ゆっくりと取り出す…


手首にそっと当てる


頭の中は真っ白




「―ッ」


カラン!


カッターナイフが落ちた

―切れてない

…切れないッ



ほらな 弱いだろう


そうして・・・

深い深い自己嫌悪に陥る僕はたいそう惨めとなる


情けない…!

ベッドに横になり

これから滲ますであろう枕に顔を埋めた――


なんかつかれた 眠い・・・


いつの間にか 眠ってた。


ここは、どこ?

なんともいえなく・・・心地良い


綺麗な世界だった

なんだか
2話
綺麗な世界は一瞬で崩れ落ちた


両親・・・教師・・・クラスメート・・・

憎いやつらに突き飛ばされたと思ったら

深い穴に落ちて―それはまるで終わりのない闇のようで


無重力で何にも見えない


不思議で怖い感覚が徐々に増し―――



……

あたしの世界はそいつらによって汚されたんだ


もう 諦めよう 人生なんかに 期待して どうなるの?


落下することに対しての、抵抗をやめた


あっけなく 消えてった あたし



「―あ」

目が覚めた・・・・・



普通なら最悪の目覚めだと思うけど

あたしは嬉しかった

なんで?



ブラックホールに落ちていく夢なのに?


やっぱりあたしは、おかしいんだ




1人笑みを浮かべた


なんだか 自分が哀れで・・・―
3話
なんで俺を残して―

涙なんか流すもんか

俺は弱くなんかない


弱くなんか・・・ねえんだよ―


否 正しくは流してなんかやるもんか


俺は、あいつらを許せない


憎くて憎くて たまらない



俺は とにかく コイツを守んなきゃ



弱くなんか ねえからさ
4話
こわいよ

部屋からでれないの

足がすくんで


まだ信じられないのに…


この恐怖感は、なに?




でも小まめにニイちゃんが来てくれるから

淋しくは、ない―

淋しくなんか ないよ



目の前が霞む

こわいこわいこわいこわい―ッ…


「あっ…あっ、あ゛ーっ!!!」


堪らず 叫ぶ

バタン!


ニイちゃんが きてくれた

そしてあたしを抱きしめた


おまえはひとりじゃねーから

何回も繰り返すニイちゃん。


― そんなの 知ってる…

ニイちゃんは いるもん

ここに、


でも なんでだろう おかしいな

あながぽっかりあいたみたい
5話
喉が、渇いた

家の冷蔵庫には何にも入っていない…

いつものことだけど―



飲み物を買いに行こう

そう思って外へ出た


頻繁に周りに注意を払いながら…

学校のやつらに見つかると、“コワイ”から

僕を見つけると嬉しそうに絡んでくる…

そのそいつらの顔を想像するだけで

吐き気が…治まらないんだ

僕はやはり、弱い ひ弱すぎる―


「いらっしゃいませー」


家の近くのコンビニエンスストアに入り

炭酸飲料と…後で来るのが面倒だから

ついでに夕食のインスタントラーメンも手に取った

レジに向かおうとした時―





「いらっしゃいませー」


―!

最悪だ

僕を苦しめていた、張本人が在籍するグループが

入店してきた


耳障りな声とか、ガラの悪い雰囲気で―解ってしまう


―哀しい事実


僕は戸棚に身を隠しやつらの行動を

隙間からチラチラ伺う・・・


体が震える―汗が全身から噴出し、

カラダが熱くなるのを感じた


やつらは雑誌コーナーにむかった様…

この状況で会計を済ますなど…

到底不可能で 僕には万引きする勇気もないし


不釣合いだけど

炭酸飲料とインスタントラーメンを

お菓子の戸棚に震える手でゆっくりと置いて…


走った―――



あれ、今の、アイツじゃね?
不登校が んなトコにいるかっつぅーの
ありがとうございましたー


こんな声が聞こえた

僕はやつらが追ってきてるような気がして


走るのを やめなかった

     やめられなかった・・・



息が切れる
足が縺れる


「あぁっ…―!」



人気のない 何処だか分からないような公園で 転んだ

                  公園に 転がり込んだ


「ちょ…アンタ 大丈夫?」


綺麗な、女の子だった―
6話
何、こいつ―…

あたしが無人の公園のベンチで泣いてたとき

誰かが公園に転がり込んできた


「ちょ…大丈夫?」


反射的に声を掛ける

そいつは顔をあげ、とても苦しそうな表情を浮かべた―


「だ、いじょぶ?」

無言の空間はキライだからもう1回問う…

「…ん」


そいつは両手で顔を覆うと

首を縦にふって意思表示した


―…なら、いいけど


も、帰ろ・・・

公園を出ようとしたとき

そいつに呼び止められた・・・


「あっ…それってリスカ・・・?」


ドクン

あたしは瞬時に左の手首を隠した―


「あんたになんか、関係ないっっ」


「……………」


あ、…何熱入ってるんだろ…馬鹿だなあたし


「否…僕できないから」

「え?」

「リストカット。勇気なくて」


何 ?コイツ ?


尊敬の眼差しであたしを見詰めてくるし…

リスカが出来るなんて 偉大なことじゃない


「あたしは…出来ない方が強いと思う」

「生きようとしてる、ってことじゃん」


―なんでこんなこと初対面の奴なんかに話してるんだろう?


なんとなく感ずいてる…あたしはこいつと似た境遇なんだ、って



「あたしの名前は 凛」
「あんたは?」

「えっ…と、海里」

「そう、また会えるといいね」


あたしはそれだけ伝えると公園を後にした―

またあいつと会えるような気がしてならないから…


『勇気なくてリストカットできないから…』

変な、ヤツ
7話
「杏」

「行ってくるな?」
「いい…か?」


杏はちょこんと布団から顔を覗かせた―

、瞼が腫れてる―


俺は眉間に皺を寄せた


「うん、いってらっしゃいニイちゃん」


絶対杏は―無理してる

顔が青白くて ちょっとでもこいつに触れたら壊れてしまいそうな…

俺は唇を噛み締め、

「あーなんかだり〜今日はやっぱガッコ行くのやめんな」

嘘をついた――

杏はそれを聴くと表情がぱぁ…って明るくなった


分かりやすい・・・可愛いな・・・

実の妹に対してそんな風に思う―

可愛い、ちっぽけな、存在

だから俺が 護るんだ


「ニイちゃん、ママとパパはいつ帰ってくるのかなぁ?」

「杏」


そっと頭を撫でる

俺は 泣いてしまった


んなことでどうする?

護んだろ!!


―俺はつえーんだよ

強ェんだ…・・・


言い聞かせれば言い聞かせるほど

涙が止まらなくて―

杏の頬に雫が堕ちる

ぽたっ・・・




「ニイちゃん。」

「…っ、あ…?」

「何で泣いてるの?パパとママが帰ってこなくて寂しいの?」


杏・・・―――

「大丈夫だよっ、もーすぐ帰ってくるから」


杏・・・

俺は…―−-


馬鹿だ


杏は悲しみを通り越して

現実逃避してしまっているのに


なみだをながしたりして

おれはまじでさいていだ


自己嫌悪に負けそうになる

死にそうになる


 ままとぱぱがかえってこなくてさみしいの? 


―その通り…かもしれねェ

でも俺はあいつらを許さない


許せねえんだ!
8話
久しぶりに学校に行った…

授業を受ける訳でもなく

ただ誰にも見つからないように屋上へ―


あたしは風を感じながらそっと目を閉じる…

そして左手首を曝け出しそっと撫でた



ある意味・・・
あたしの生きてる、証拠―



ベンチに座りうっすら睡魔が襲ってきた頃に

数名の女子生徒がやって来た

あたしは見つからないように顔を隠したけど

手遅れで… ドクドクドク―と痛めつけられた脈が波を打つ


「あ!橘サンじゃぁ〜ん」
「ホントだーっ」
「てかさ…」

「良くガッコ来れたね」


―あたしは目を伏せただただ黙っていた

すでにもうベンチはそいつらによって囲まれていた


あたしは吐き気に必死に耐えながら―

「マジきめぇんだよ!橘菌!!!」

多くの中傷に―

「何とか言えよ!リスカ常習」

また自分を失った―


視界がぐにゃぐにゃ歪む…



「何とか言えよ!」

バシャ…ッッ!!


そいつらの1人が何も言わないあたしに

対して激しく憤慨して手に持っていたコーラを

あたしの顔に勢い良くかけた


「何やってんだよ!!」


―誰?


声のした方に目を向けると

同じクラスの雨宮新だった…


こいつはクラスの誰にでも優しくて

悪い印象は一度も抱いたことがない


「んだよ、雨宮ぁ」
「もしかしてデキてんの?!」

雨宮とあたしを交互に指差して
キャハハ…と一斉に笑う


「うっせーんだよ!!てめーらさっさと消えろ!!!」


雨宮は怒りが収まらないような様子で

怒鳴り散らした


「エラソーにしてんじゃねぇーよ」





「おまえの親二人揃って自殺したんだろ」






「マジでぇー?!」
「アタマ可笑しんじゃね??!!」


―え…

あたしは耳を疑った

雨宮の顔色がみるみる青ざめていく…

その様子から事実だと伺える


―雨宮は深い心の闇を抱えている

直感で解った…―

雨宮は―

暗闇で何て叫ぶんだろう・・・


あたしは知りたい
9話
「雨宮・・・」

橘凛の呼び掛け

「違う!!」

俺は強く否定した


あいつらは―

「血なんか繋がってない」

最悪なことを言った

だけど俺にもそんくらいの権利は在ると思う

あいつらが自分等を殺したのは事実だから

ただ、ただ―杏に後ろめたい気持ちがあるのは確かだ…


ああ もう 俺も 消えたい


「は?頭おっかしくね〜」


女子生徒らの汚ねぇ笑い声―…

俺は拳を強く握る

その手が怒りで震える


「去れ」

「はィ?」

「消えろっつってんだよ!!」
「じゃねーとテメー等ぶっ殺すぞ!!」


我を忘れ―俺が最も嫌いな言葉を使って叫び倒す・・・



「きもーい」

「いこいこ!!」


女子生徒らは口々に不満を漏らしながら

そそくさと屋上を後にした


「橘…軽蔑した?」


不安で胸が張り裂けそうだ


「するか、ばかっ」


橘の―強い―コトバ


俺の心臓の暴れはこのコトバによって

徐々に落ち着いてきた


「雨宮アリガト」

「おぅ」


長い沈黙―――

橘も何を言っていいかわかんねぇんだろう

自殺した両親の子供を前にして…


「橘、お前ガッコ来い」
「お前のこと さっきみてーに守るから」

本心。

「・・・ホントばか!」


―え?


「っ自分が死ぬほど辛いのに・・・なに人の心配してんのよ!」


橘の瞳が段々潤み始める


「つれーのは橘だって一緒だろ!」
「原因はちげーけど…多分、悲しみの度合いはたいして変わらねーんだ」


そうだ 皆苦しみながら 何かを背負って 生きている

それは 誰だって 同じなんだ 涙を堪えながら 必死に

―  ここに、いる ―



俺は知らないうちに涙を流していた

その事に気付いたとき屋上のドアが唸った


「今の話…ッ聞いてました」


確か隣のクラスの、永倉海里だ

いじめられて 不登校になったヤツ


そいつもまた泣いていた

だけどしっかり俺等の方を向いて


「・・・自、分もすげえ共感して」
「…暫く此処居ていいですか」

「海里…」

どうやら橘は知り合いらしい


「おぅいいよ」


あたりめーだ…



屋上は空に近いところ



だから泣いたって 太陽が直ぐに乾かしてくれる


絶好のスポット



屋上は空に近い―――
10話
「海里!」

放課後の閑散とした雰囲気の中―

雨宮新が永倉海里を呼び止めた

海里は声のした方に振り向くと微笑んだ

輝きに満ちた顔つきで―


「今日さゲーセン寄ってこーぜ」

「あれ?杏ちゃんはいいの?」

「あぁ…あいつ小3のくせに一丁前に彼氏つくりやがってよぉ」


新は不満を口にする


「毎日『今日もデート♪』とか言って最近俺に構ってくんねーの」

「本当は嬉しいんでしょ?」

海里は見透かすように怪しい笑みを浮かべた

新は図星をつかれたようで

顔をしかめると 笑った

「まぁーな」

照れくさそうにワックスでつんつんにした

自分の茶髪を掻き毟る


学校を出て賑わう商店街を抜けた

「で?最近橘とはどうなのよ?」

「・・・・・・・・・」

「ハイ、だんまり禁止〜〜」

「まぁまぁ、かな」


海里は一ヶ月前から橘凛と付き合っている

きっかけは―ない

お互いに惹かれあうものを感じ

自然に愛の言葉を伝え合うようになった


「んじゃ〜何処まで行った??」


妥協するように新はおどけて舌を出した


「…まだ手も繋いでない」


海里は照れを隠すため俯きがちに答えた


「もー純情カップルなんだからぁ」


新は海里の頭をポンッと軽く叩いた


「別に・・・」

「あー杏も彼氏作ったし俺も恋してーなー」


新は頭の後ろで手を組んで空を見上げた


空は高く 澄んでいた


それはまるで海里たちのココロを表しているようだった



海里は元親友をリーダーとしたグループにいじめられ
毎日の過激な暴力は日常茶飯事だった。
親は金だけを海里に渡し、子育てをしている気になっている。

凛はクラス全体からハブにされ、
自己嫌悪をリスカすることで落ち着けていた。
先生にさえも手首を見られ「気持ち悪い」と言われた。

新の両親は仕事が全く上手くいかなくなり
新たちに置き手紙さえ残すことをせず
本人たちの都合だけで逝ってしまった。

杏は両親が死んだことを知っているのに
哀しすぎて「ママとパパは出掛けてる」と
現実逃避をしてしまっている。


海里はまだ淋しさが消えない

凛はまだ痛みが残っている

新はまだ許せない

杏はまだ信じられない


だが皆精一杯・前を向いて―生きてる

皆で“笑おう”と必死になっている




Q.あなたは今どこにいますか?


A.―ここに、いる
解説
ここに、いる 

―1話 永倉 海里(ながくら かいり)side

―2話 橘 凛(たちばな りん)side

―3話 雨宮 新(あまみや あらた)side

―4話 雨宮 杏(あまみや あん)side

―5話 永倉 海里side

―6話 橘 凛side

―7話 雨宮 新side

―8話 橘 凛side

―9話 雨宮 新side


わかりにくいと思うので

話ごと 誰の目線か を書いておきます


いままで読んでくれてありがとうございました

10話で完結です^^

kano